蝶幾千

青い影からうまれた

黒い蝶は

色鮮やかな花を探している

すべての色を吸いつくして

ベンタブラックになるために


バニラの奥で羽化した

白い蝶は

ときどき透明になる

紅茶の時間に

良い香りを散華する


ドービニーの庭から抜け出てきた

アイリス色の蝶は

消えた黒ネコを

ずっと探し続けている


夕焼けに染まらない

オレンジ色の蝶は

逢魔が時の残照を跳ね返して

紫磨金色しまごんじき変化へんげする


プシュケーと呼ばれる

紫の蝶は

夜にだけ羽ばたく

人々の魂を薄紫に染めて

月の空へ送るのだ


生まれるときに連れて来て

逝くときに寄り添う

蝶幾千


その色彩は

幻想の世を生きた証の色


https://kakuyomu.jp/users/rubylince/news/16818093078674335070

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