第9話 絶望
ごめんなさい、真理。
ごめんなさい、恭平。
助けに行けない私を許して。
両手で顔を覆い声を殺して泣く私の肩を修哉がそっと抱いた。
「そうだ!テレビでもなにか情報がやってるかも!」
女子生徒がテレビに駆け寄るとスイッチを入れた。
「臨時ニュースやってるぞ!!」
画面を見た男子生徒が指さしして言った。
みんな画面に釘付けになる。
「画面が荒いな」
「電波障害?」
私も涙を拭いながらノイズが走る、荒いニュース画面を見た。
「暴動?暴動って言ってるぞ」
武藤先生が画面のテロップを見ながら呻いた。
ニュースでは私達の学校がある周辺で住民による暴動が起きていると報じている。
そして近隣住民は鍵をかけて外に出ないようにと。
学校に暴徒が押し寄せてきたときに聞いたラジオと同じことしか言っていない。
「つか、暴動じゃねーし!ウイルスじゃねーか!」
みんな口々に言う。
「ウイルスってなんだ?」
三年生の人が私達に聞いてきた。
「この学校が建つ前に、 その、病院があったんです。そこでなにかの実験をしていたらしくて、それが新種のウイルスで、一晩で病院の人がほとんど死んだとか」
修哉が説明した。
「なんだよそれ?」
「私、それ聞いたことある!一晩で病院も町の人も死んだって話でしょう?」
「じゃあ俺達もああなるのか?」
「もう感染してるのか?」
三年生の人達は修哉の話を聞いて取り乱した。
「みんな落ち着け!取り乱すんじゃない!」
武藤先生はみんなを宥めるように、両手を広げて言うと続けた。
「ウイルスだと断定してるわけじゃないんだ!仮にそうだとしても、どうやって人に感染して発症するのか今の我々にはわからない」
「こんな状態で落ち着けるかよ!」
三年生が言い返す。
「だから!だから、わからないことで必要以上に不安になったり騒がない方がいいだろう?騒いだところでわからないんだから。むしろいたずらに不安になるだけだ」
「そうだよ。先生の言うとおりだよ。ここは落ち着こう?」
三年女子が三年男子の腕を掴んで言う。
三年生の人達は、それぞれ顔を見合わせてから納得したようにうなずいた。
「誰か、そのへんのパソコンを開いて見てくれ。ネットではどう報じてる?」
武藤先生に言われて修哉が近くにあった机に座ると、置いてあるノートパソコンを開いた。
有線接続だからスマホよりつながるかもしれない。
ウェブのニュースを検索する。
修哉の他にも、何人かが近くにあるパソコンを開いた。
私は真理や恭平のことで頭が一杯で、とてもその中に加わることはできなかった。
一人、立ちすくんでみんながやることを見ていた。
全員がパソコンを開いたり、見ている間、武藤先生がスマホを取り出してなにか操作しているのが気になった。
何をしているんだろう?
スマホでは繋がらないからここへ来たのではないのか?
「電話が!110番がつながったぞ!」
パソコンを見るのとは別に、警察に電話していた生徒が嬉しそうに叫んだ。
みんな、一斉にそこへ集まる。
「はい!学校です!みんなおかしくなって…… 暴動?わからないけど、たくさん人が死んでます!助けて!」
電話に声のトーンを下げながらも、切迫した状況を伝える。
最後に職員室にいることと、学校の住所を言って電話を切った。
「やった!助かる!」
「やったぞ!」
「良かった!お母さん!」
みんな、どっと安心して抱き合って喜んだ。
中には涙を流している子もいる。
「もし、恭平と真理がどこかに隠れていたらこれで助かるかもしれない」
修哉が私に言った。
「そうだよね。 助かるよね」
自分の中に希望が射した気がした。
これで助かる。
この恐ろしい状況から抜け出せる。
窓の外からは、校庭を徘徊している感染者の恐ろしい声が聞こえてくる。
でも、もう終わるんだ。これも。
みんなが安堵して十数分が経った頃だった。
窓の外からパトカーのサイレンが聞こえてきた。
「やった!」
「来た!」
みんなが窓に殺到する。
「待て!窓から見えるぞ!」
武藤先生がみんなを止めた。
「だって警察来たんだから、もう大丈夫だろ」
「それでも!警察がちゃんと外の連中に対処するまでは下からは見つからないようにするんだ!」
武藤先生の言いたいことはわかる。
もし、警察よりも早く下にいる感染者がここまで押し寄せてきたらせっかく助かるものも助からない。
しかし、どうしても気になる私達は、窓辺にしゃがんで顔半分だけ出して外の様子を見た。
校庭の向こうから聞こえるサイレンがだんだん大きくなってくる。
「やった!きた!」
「警察だ!」
「助かった!」
キャンバスの方から警察官らしき姿が五、六人見えた。
「おい!あれだけかよ?」
「ああっ!」
しかし一瞬にして暴徒に襲われ、その姿は群れの中に消えてしまった。
「嘘だろう…… やられちまった」
「なんで拳銃撃たないんだよ?」
「あれだけかよ?応援は?」
「ダメだ……終わった」
職員室にいる全員を絶望が支配した。
私達は助からない。
そんな思いが自分の中に生まれた。
私は力が抜けて、その場にへたりこんでしまった。
「未来、大丈夫だ。俺が守るから」
私の方を抱き、修哉が励ましてくれる。
「ありがとう修哉」
そう言った時だった。
急に私の意識が遠のいた。
なんだこれ?
眠い?こんなときに!?
意識が薄れて目も開けていられない。
「未来!おい!未来!」
修哉の声が聞こえるけど、答えられない。
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