第33話 柔らかな感触は心臓に悪い!

「お〜広〜い!!」

「アトラクションがいっぱいありますね!!」

 俺たちは、以前話していた隣町のウォーターパーク

『サマーシャイン・ウォーターパーク』

 に来ていた。

 目に見える範囲でもたくさんのアトラクションが設置されている。

 そんなアトラクションを前にして黒瀬さんと宝条さんは、子供みたいにはしゃいでいた。

 場所はプールということもあり、二人とも水着だ。

 黒瀬さんは黒のクロスビキニ。

 宝条さんは白のフリル付きのビキニだ。

 分かっていたが――二人とも、ものすごくスタイルが良い。

 陸上に演劇と体を動かすことが多い黒瀬さんは、全体的に引き締まっているせいで胸元が強調されている。

 対して、宝条さんは健康的な体つきにフリルビキニの可愛さと暴力的な胸元を見事に調和させている。

「たく、子供かよ」

「そういう柏崎もソワソワしてんじゃん」

「う、うるさい!」

 ペシっと俺の腕を叩く。

 ちなみに、柏崎はフリル付きのセパレートタイプの水着だ。

 それにしても――

「色々大変そうだ」

 前ではしゃぐ美少女二人を行き交う男性達が目で追っている。

 これだけ広くて利用客の多い施設だ。

 ナンパとかも多いだろうし、なるべく離れないようにしないと。

 タッタッタッと黒瀬さんはこちらに走ってくると――

「ほら、加奈子と和葉もウォータースライダー行こうよ!」

 言うなり、俺の腕を抱えて引っ張っていく。

 そうなれば、必然的に黒瀬さんの柔らかな双丘に腕が埋もれるわけで……。

 黒瀬さんは気にしてないみたいだが、俺は軽いパニック状態だ。

 そんなこんなでウォータースライダーの頂上に到達した訳だが。

「思ったより高くないか……?」

「えー?そう?普通でしょ」

 高低差二十メートル、全長百三十一メートルの『オールブラック』と呼ばれるアトラクション。

 スライダー部分が完全に遮光されているため、暗闇を滑り落ちなければならない。

 並んだ順番で、俺と黒瀬さん。

 柏崎と宝条さんのペアになった。

 スタッフさんの指示で浮き輪に乗り込む。

 浮き輪にも掴む部分があるのだが、黒瀬さんは俺の腰に手を回してくる。

「え、ちょ……黒瀬さん?」

「ドキドキするね」

 それはどっちの意味!?

 突っ込む間もなくスタッフの合図でスライダーの中へ勢いよく突入する。

「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「はや〜〜〜〜いっ!!すご〜〜〜〜〜〜い!!」

 俺の絶叫と黒瀬さんのはしゃぎ声が木霊する。

 右へ左へ急降下……いや、本当に落ちているのか!?

 視界が制限されるだけで、恐怖がかなり倍増している気がする!

 永遠に思える時間も終わりがやってきた。

 突如、視界が開けたと思えば盛大に水しぶきが顔を襲う。

「ぷはっ!お、終わったのか……?」

「楽しかった〜!!あっという間だったね」

 浮き輪から降りプールから上がる。

 その直後――

「きゃぁぁぁぁぁっ!!」

「わぁぁぁぁぁぁっ!!」

 ザッパーンという着水音とともに宝条さんと柏崎も合流する。

「怖かったぁ……加奈子ちゃぁん」

「だから、無理すんなって言ったのに」

 あまりの恐怖に泣いていた。




「お見苦しいところを……」

「宝条さんって絶叫系は苦手なんだな」

 俺と宝条さんは、流れるプールでまったりしていた。

 柏崎と黒瀬さんは、アトラクションを全制覇するらしくウォーターパーク内を駆け回っていた。

「小さい頃、スライダーが終わった着水のときに滑って溺れてしまって……」

 アハハ……と自嘲気味に笑う。

「でも、今日は乗れてたし深刻じゃなくて良かったよ」

「はい!それで……あの……もし良かったら、初心者用のウォータースライダーを一緒に乗りませんか?」

 おずおずと指さした先に、先程よりも高低差と全長が控えめなウォータースライダーがあった。

 あれくらいなら、宝条さんも乗れそうだ。

「良いよ、乗ろうか」

 流れるプールからウォータースライダーまで移動する。

 やはり、先程よりも大したことは無さそう。

 真っ直ぐ滑り降りるだけのスライダーだ。

「か、和葉くん?わたしの前に……」

「え?」

 スタッフが押さえてくれている浮き輪の前方に乗せられ、宝条さんは後ろに座る。

 ギュッと後ろから抱きつかれる。

 ムニュっとした柔らかな感触が背中に伝わる。

 恐らく恐怖ゆえの行為だろうが、正直心臓に良くない!

 そして、スタッフの合図でスライダーを滑走する。

「おぉっ!意外とはや!」

 一発目がインパクト強めのスライダーだったので、どうしてもリアクションが軽くなってしまう。

 後ろから反応が無いのは、俺の背中に顔をくっつけ全身全霊でしがみついているせいだろう。

 着水と同時に拘束が解かれる。

「こ、怖かった……」

 そう言う表情には、笑顔を含んでいたので安心した。

「つ、次は……あれ、行きましょう」

「まじ……?」

 てっきりこれで終わりかと思っていたのだが、まだ乗るらしい。

 宝条さんなりに楽しもうとしてるのが、目に見える。

 そのあと、合計三回ほど乗ったが、宝条さんは全身全霊で俺にしがみついていた。

 背中に伝わる柔らかな感触に心地良さを覚えてしまったのは内緒だ。



 お昼を食べたあとも、水上バレーや四人で乗れるウォータースライダーで時間を忘れるほど楽しんだ。

 帰りの電車の車窓から差し込む夕陽にウトウトしている宝条さんと黒瀬さん。

 最初から最後まで全力で楽しんでいたのは、この二人かもしれない。

 俺も久しぶりに心地いい疲労感に包まれていた。

 だが、隣町なのでひと眠り――なんて時間もない。

 疲労のせいで、家に着くまでの足取りが重くなる。

「俺たちはこっちだから……じゃあ、気をつけてな」

「は〜い、また遊ぼ〜ね」

 やや、ポヤポヤしながら黒瀬さんが答える。

 俺と柏崎は二人が歩き出すのを見届け、家路に着く。

「や〜遊んだ遊んだ!プールなんて久しぶりだったな〜」

「俺もだよ。明日は筋肉痛だな……」

「こんなんで筋肉痛ならねーよ!」

 ケラケラと笑う。

 だが、前を向いていた柏崎は不意に俺の方へ向き――

「そーいえばさ?なんで、南雲は雫と渚を苗字呼びなの?」

 至極真っ当な疑問。

 夏休みに入ってから四人で遊んで過ごすことが多い。

 それなら、多少なり距離感が縮まって名前呼びも出来るはずだ。

「……恥ずかしいんだよ。女の子を名前で呼んだこと無いから」

「ピュアかよ!考えすぎだっつーの」

 俺の答えを楽しそうに笑い飛ばす。




『あぁ……虚しい』

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