第16話 計画

 ――月曜日


「少し強引だったかな」

 俺は待ち合わせに指定した駅構内で、昨日の夜の出来事を振り返る。


 ―――


 あれから少し考え、俺の計画は固まった。

 目標達成までの道筋は完璧……だと思う。

 だが……俺は計画の初手で詰みかけていた。

 女子を遊びに誘うの――ハードル高くないか!?

 宝条さんを公演会になんなく誘えたのは、黒瀬さんの『渚と観においで』一言のおかげだし。

 教室では、気軽に女子に声をかけてる男子をよく見るが……。

 あいつらって凄いんだな。

 悩みに悩んで、公演会後の夜まで引っ張ってしまった。

 だが、タイミング良く電話がかかってきたので、思い切って提案してみた。

『南雲くん?明日は学校だよ?』

「もちろん、知った上で誘ってるんだよ」

『さすがに、学校も部活も簡単には休めないな。なんで明日なんだい?』

「…………気分転換だよ」

 しまった。誘う口実を考えてなかった。

 苦し紛れの口実だが……どうだ?

 携帯の向こうから返事は無い。

 呆れられただろうかと不安に駆られたが、返ってきた言葉にホッとした。

『ふふっ南雲くんは僕を悪い子にしたいのかい?』

「安心してくれ、俺も同罪だ」

『……入学早々サボりか〜。待ち合わせ場所はどうしようか?』

 言葉とは裏腹に声が明るい。

 なんなら、遊ぶ気満々だ。

「あー……その前に一つ頼みがあるんだ」

『構わないよ、なにかな?』

「明日は――」

 俺の頼みに、今回は首を縦には振らなかった。

『それは……少し、厳しいかな』

「どうしても?」

『どうしてもだよ、君も大概だね?そんなの見たって面白くないだろう』

「別に面白そうだからって理由じゃないよ。人の目を気にしてるなら問題ない。明日は学校だ」

 はぁ〜……と、深いため息が聴こえる。

『そのために平日に誘ったのかい?』

「そうだよ」

 悩んでいるのか沈黙が続く。

『……それでも、嫌だと言ったら?』

「俺が悲しむくらいかな」

『はぁ……まぁ、考えてあげても良いよ』

「男の泣き落としも案外通じるんだな」

『僕以外には、止めることをオススメするよ?』

 とりあえず、第一関門は突破。

『ふふっ……学校をサボるのなんて初めてだ、なんだか楽しみになってきた!』

 なんやかんや、楽しみにしてくれてるらしい。

 学校も部活もサボらせる非常識さに、お咎めがなかったのは幸いだ。

 その後は、他愛のない会話をして電話は終わった。

 この様子だと、明日は問題なさそうだ。


 ――



「お、お待たせ……南雲くん」

 黒瀬さんの呼びかけで意識を現実に引き戻される。

 目の前には、恥ずかしそうにの裾をキュッと掴んでいる黒瀬さんの姿があった。

「いや、大して待ってないよ。はぁ〜……普段と全然雰囲気が違うね」

「君が着てこいって言ったんじゃないか……」

 今日、遊ぶための頼み事の一つに『女の子らしい服装で来て』と伝えていた。

「それにしても、よく持っていたね?話を聞く限り持っていないかと思ってた」

「この前、渚と加奈子に一着は持っておいた方が良いって言われて買ったんだよ……」

「その感じだと、今日が初お披露目?似合ってる、可愛いよ」

「よしてくれ……恥ずかしいんだ……」

 今日の黒瀬さんは、普段の凛々しい姿はなりを潜め、しおらしく年相応の女の子に見える。

 ワンピースを始めとし、ナチュラルメイクに前髪をヘアピンで纏めていたり、前回会った時とは真逆の見た目だ。

「じゃあ、行こうか」

「う、うん……それで、今日は何をするんだい?」

「……すまん決めてない、ノープランだ」

「……え?なにかしたいことがあったんじゃないのかい?」

 俺の計画の一つ目は、『黒瀬さんに女の子らしい服装で外に出てもらうこと』だ。

 少しずつ自分が女の子っぽい事をすることに、抵抗感を減らしてもらうのが目的だ。

 ので、細かいプランは練ってない。

 それに、気分転換と称して誘ったは良いが、黒瀬さんの好きなものが、演劇以外分からなかった……。

 それでも――

「俺は黒瀬さんに何も考えず自由に楽しんでほしいから、学校をサボらせてまで誘ったんだ」

「自由に……か、そんな事言ったら後悔するよ?」

「俺がやりたくてやった事だし、後悔しない……と思う」

「そっか……」

 黒瀬さんは頬を両手でパンパンと優しく叩く。

 羞恥に頬を染めた表情から、やや快活さを感じる表情に切り替わった。

「せっかくの機会だ、この際楽しむことにするよ!満足するまで帰さないからね?」

 なにやら、怖い発言が飛び出たが、やれるだけやってみよう。

 もう、俺の計画は始まってしまっているから。

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