Curse ~学園国家サイバイガルの日常~

田無 竜

第一部

第一章「九十度」

サイバイガル・タイムズ 二〇三四年 第十七号

『驚愕! 七人目の狂信者ファナティクス!』


 麗らかな春の陽気が我々に懈怠の煩悩をもたらす今日この頃、春風は温もりと共に思いもよらぬ存在を運んでまいりました。

 いえ、それは少し違うかもしれません。

 何故ならその存在は初めから我々のすぐ傍におりました。

 そう、『彼』はただその『力』を隠していただけなのです!

 彼の名は君口兄斗きみぐちけいと

 彼こそ七人目の狂信者ファナティクス

 人智を超えた超常現象をその身に纏う、神の啓示にすら記されていない不可思議な麒麟児!

 本号では彼への取材のやり取りを掲載させて頂こうと思います。

 温厚かつ懐の奥深い君口氏に多大なる感謝と敬意を称しましょう。



――本日は御協力感謝致します。君口さん。


君口氏「いや、何言ってんのさマック。急に改まって、気味が悪いなぁ」


――それでは質問に移ります。


君口氏「え? 無視?」


――貴方はこれまでその『力』を隠して学園生活を過ごしてきました。だというのに、どうして急にその『力』がバレてしまったのでしょう?


君口氏「だから何で敬語? 何か距離感じて嫌なんだけど……」


――…………。


君口氏「何ニヤけてんのさ。もしかして僕馬鹿にされてる? 馬鹿にされてるよね?」


――…………。


君口氏「……わかったよ。質問に答える。仕方なかったんだよ。『力』を使わないとあの子を助けられなかった……」


――それでは、何故今まで隠していたのですか?


君口氏「……こういう面倒に巻き込まれたくなかったんだよ。僕はただそれなりに楽しい青春を送りたかっただけなんだ」


――学園長から叱責を受けたと聞きましたが……。


君口氏「反論した。僕がこの『力』を持ったのはたまたまだし、僕自身望んでいないんだよ。だというのに上から目線で『隠すな』とか何様って話で……あ! 今の無し! 記事にするなよ!? 絶対するなよ!?」


――では、その『力』について詳細をお聞きしてよろしいですか?


君口氏「えぇ…………まぁいいか。そんな大層な物じゃないよ。ただ向かってきた物や僕が邪魔だと思ったものを跳ね返すだけ」


――? 『跳ね返す』? どういう意味ですか?


君口氏「『リフレクション』。六角形のバリアが出てくるんだ。勝手に飛んできた物を跳ね返したり、僕の意志で操ることも出来る。まぁそれだけ。理屈は何もわからない」


――……便利で良いなぁ。


君口氏「素出てるぞ」


――失礼。しかし、それだけ便利な力なら持って損はないでしょう?


君口氏「……まあね。人助けにも使えるとわかったし、もう隠す必要もない。精々未来のための研究対象として、これからは冷ややかな青春を送るとするさ」



 君口氏はそう言って『力』の悪用をしないと宣言した。

 やはり彼は素晴らしい人格者と言えよう。

 その『力』を持つことが良いこととは限らない。

 彼は自らの青春の時間に若干の代償を支払うことが約束された。

 当然だが彼にはこれから『監視』が付くことになる。

 ただ、そのことを彼と話していると、不思議と彼は僅かな笑みを見せていた。

 その理由を話しては頂けなかったが、果たして彼の今後の学園生活は何色になるのだろうか。

 美しく華やかな薔薇色か、それとも……。

 今後の彼の動向に注目必至だ。

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