ガンオード
月待 紫雲
適性零/適性百
ガンオードパイロット育成高等学校。
突如世界を襲い始めた化物「ダテン」を倒すために開発された二〇メートル級の人型兵器ガンオードのパイロットを育成するために設立された学校だ。
僕はその学校の体育館裏で、一人の少女と向かい合っていた。
成績一位。適性も実力もある、超優等生だ。
長い黒髪を全体的に切りそろえていて、前髪も少し太めの眉が見えるぐらいで切りそろえている。顔立ちは丸みがあって可愛らしい。
顔を赤らめながらスカートの前で両手の指をいじっている彼女は、やっとの思いという感じで口を開いた。
「わ、わたひとっ、つきあってください」
普段の彼女からは想像できないほどの上擦りと舌っ足らずな声でそう言われた。
「……へ?」
咳払いをした彼女は気を取り直したようにもう一度言った。
「卒業まで彼氏になってほしいの」
変な話だ。
僕も彼女もあと二ヶ月で卒業する。なのにその期間だけ彼氏になってほしいだなんておかしい。
「卒業まで?」
「うん、私その後死ぬから」
寂しげに、諦めたようにそう言う。僕はというとあまりの現実感のなさにぼうっと彼女を見るしかなかった。
「……死ぬ?」
「うん死ぬの」
「……はぁ」
「だから卒業まで。あっ、皆には内緒ね」
クソ重たい秘密を親しくないのに押し付けられて、僕は呆然とするしかなかった。
「だから思い出がほしいんだ。とびきり甘いやつ」
「僕が断ったら?」
「友達とわーきゃー遊んで終わりにするかなぁ……」
「やりたいのはどっち」
僕の問いに目鞠は一歩近づいてきた。
「言わせる……?」
「……告白というより脅迫だね」
両手をあげながら、僕はため息を吐く。
「なんで僕なの」
「知り合いは彼女いるし。キミ手っ取り早そうだし」
「……うわテキトー」
「それに私を負かし続けた唯一のライバルだし、ね」
それを言われて頭をかく。
僕はガンオードの操縦を想定した模擬戦で一位だった。それでも成績が彼女より下なのはやる気がないのと適性がないからだ。
ガンオードは人の特殊な脳波サイによって機体の性能が大幅に強化される。サイの強さは人それぞれだ。そしてそれがガンオード適性となる。
僕はゼロ。彼女は
模擬戦で勝てたのは使用する機体のサイ合金の量が微量だったからに他ならない。実践仕様になれば合金の比率は増し、模擬戦の結果など鼻で笑える。
アリ一匹がどれだけ頑張ろうとも人間に簡単に踏みつぶされるのと同じくらいの性能差が現れる。それだけサイの力は強く、ガンオードに重要な要素だ。
模擬戦一位でも僕の進路が作業ロボットの操縦士になったのはそういうわけがある。
「結城くんは私のことどう思ってるの」
真っ直ぐ見つめられて、僕は頬をかく。
「綺麗だと……思うよ」
「……ってる」
目鞠はぼそっと何かを言うと、僕の両手を繊細そうな手で握ってきた。指先が冷たくて、でも柔らかい。
「ちょっ」
「あはっ、顔真っ赤ー!」
し、仕方ないだろ僕なんて女子と喋る機会なんてないんだから!
「私のこと、好きにしていいよ」
耳元で囁かれる。あまりにも甘美な誘惑にごくりと唾を呑み込む。
「……キミはやりたいことある?」
「うんいっぱいある」
「なら、付き合えるだけ付き合うよ」
目鞠の言葉を信じるならば──関わりのない僕に嘘をつく理由ない。嘘であれば卒業までの二ヶ月に条件をつける意味もない──否定したいけど、おそらく彼女の未来は悲惨なものが待っているらしい。
なら、僕のくだらない二ヶ月で彼女の二ヶ月が明るくなるなら安いものだろう。
「今日から僕はキミの彼氏……でいいのかな」
あまりにも唐突で現実感がないので確認を取る。
すると彼女は微笑んで、一筋の涙を流した。
「ありがとう……だよ」
さらっと言われたことを認識する前に、思考を奪われた。
唇を塞がれていた。
お互いの鼓動がわかるくらい密着して、よくわからないけどとにかく髪からいい香りがして、飽和する甘い感覚に酔った。
しばらくして唇が離れる。
真っ赤なトマトみたいに目鞠の顔は赤かった。
「やりたいことその一、ファーストキス叶えちゃいました」
ぺろっと舌を出す目鞠。
「よろしくね」
僕は無言で自分の唇を触る。
柔らかかった、いろいろと。
…………過剰供給で死ぬ。
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