高嶺の花の幼馴染と凡庸な俺の朝の秘密のルーティン

まっしろき

幼馴染との朝の秘密のルーティン

ピピピッ、ピピピッ、ピピピッ


枕元に置いたスマホののアラームが鳴り、目が覚める。

俺は仰向けのままスマホに手を伸ばし、アラームを止めた。


ゆっくりと目を開け、横を見ると、学園の高嶺の花と言われている女子がすぅすぅと寝息を立てている。


東雲しののめ れい


これが今隣で寝ている女子の名前だ。

容姿端麗、学業優秀、運動神経抜群、性格も良し。

神が実験的に、何物も与えまくってみた人間作ったみてやろう、の精神で作ったのではないか、と思われるような女子だ。


おそらくその反動で、容姿・学業・運動神経・性格も全て凡庸なモブの中のモブ、真中まなか あきら、……ハズレ枠の人間である俺が幼馴染となってしまったのだろう。


こんな冴えない男と同じベッドに寝ている、なんて学園の生徒に知られたら大ニュースになってしまうだろう。

……まぁ、実際は玲の両親がとても忙しいため、家族ぐるみでの付き合いがある真中家で預かっているだけである。

一緒のベッドで寝ているのは昔からの名残だ。


「玲、朝だぞ」

「んん……あーくん……もっと……♪」

俺に声を掛けられ、幸せそうな寝言?を発しながら玲がもぞもぞと動く。

多少は目が覚めているがまだ起ききってはいない、という感じだ。

また、「あーくん」とは玲しか使わない俺の呼び名だ。

「あ」しか「あきら」要素がない。

せめて「あきくん」だろと思ったりはするが今更である。


「『もっと』じゃない。俺は朝飯用意するからそろそろベッドから出るぞ。それに……ルーティンの時間も短くなるぞ」

と言うと、玲はビクッとした。

そして、うっすらと目を開き、

「……起きる……から待って」

と俺を引き留めてくる。


仕方ないので待つことにする。

実際、まだ6時30分であり登校までの諸々の準備を含めても、7時過ぎから始めれば問題ないので時間にはかなり余裕がある。

1分くらい待っていると、玲は起き上がり、俺を見つめると、笑顔で、

「……おはよ、あーくん」

と言ってきた。


「おはよう、玲。……ほら、立てるか?」

「……手」

「はいはい」

俺は玲の手を握り、ベッドから立たせてやる。

そして、手を繋いだまま、部屋から出て洗面所へと向かう。


洗面所につき、順番に顔を洗う。

そして、寝起きであるため、うがいもする。


待っている方はその間にトイレを済ませる。


もはや2人の完成された朝の日課、のルーティンだ。


俺は、

「目、覚めたか?」

と声をかける。


「ううん、まだ、かな……あーくん……」

と玲は何かを期待するような目で俺を見ながら答えてきた。


俺は玲の視線の意図に気づく。

仕方ないと思いながら、制服の置いてある部屋に2人で戻った。


~5分後~


俺と玲は唇を合わせながら、ただひたすらにお互いを求めていた。


「あーくんっ、ちゅる、れろ、ちゅっ……っ、はむっ、す……ちゅっ……き……」

舌を絡ませ、唾液を交換し合う淫靡な音が朝の静かな部屋に響く。


「ちゅっ…………ぷはっ……はぁ、はぁ」

新鮮な空気を吸うために、一度唇を離す。

その際、どちらのものとも判断のつかない唾液が糸を引くようにツーっとかかり、切れる。

それを皮切りに再びキスを再開する。


これは幼稚園の頃から続けている朝の秘密のルーティン。

内容はただの幼馴染としての絆の確認。

そこには恐らく恋愛感情はない。


幼稚園から小学生低学年の頃は、ただ唇を合わせるだけの、子供のキスだった。

そのときは特に何も思い入れもない、なんとなくやっていた。


小学生高学年になった時、一度好奇心から舌を入れてみた。

しかし、起きたての口が臭く、まずくてお互いにむせてしまったので、子供のキスを続けようということになった。

小さい頃と違い、キスの回数が増えた。


中学生になってからは、玲からのお願いで、毎回舌を入れるようになった。

初めて舌を入れた時とは違い、きちんとうがいをしてから、キスをするようになった。

お互いを深く感じることが出来たからか、そのことで安心感を覚えるようになった。

キスの回数は減ったが、時間が長くなった。


とある朝、一線を越えた。

玲に押し倒された。

『これはルーティンの派生だから』と言われ、俺も納得していた。

その行為には親愛以外の感情があったかは分からない。


そして高校生になった今。

お互いに抱き合って密着し、舌を入れて絡めるのは当然、意図的にお互いの唾液の交換をしあうなど更に深く求めるようになった。

まるで恋人のように。

キスの回数は増え、当然時間も長くなった。


そして、たまに身体を重ねるようになった。

朝は時間がないので、夜に朝のルーティンの続きとして、もう数え切れないほど身体を重ねている。


そのことについて玲は『ルーティンの続きだから』としか言わない。

それに対して俺は『分かった』としか言わない。

深くは何も聞かない。


俺はいつかは不要になる存在だ。

だから玲の幼馴染、という立場以上の深入りはしない。

一般的な視点からしたら距離感はおかしいかもしれない。


誰にも言えない。


しかし、これで良い。

玲が求めてくるのなら俺はそれに応えるだけなのだ。


そして20分後。

のアラームが鳴った。

これは、このルーティンの終わりの時間を告げるアラーム。


鳴ったのを確認した俺たちは、最後に名残惜しむように長いキスをする。


1分が経過し、アラームが勝手にスヌーズになり、止まる。

そこで唇を離す。


そして、俺は、

「目、覚めたか?」

と玲にもう一度聞く。


玲は、

「うん、覚めたよ。おはよう、くん」

と答えた。


俺はアラームのスヌーズを解除する。


いつも通りの日常が始まる。

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