価値のないロボット
かとうすすむ
第1話 本文
苦難の研究の果てに、ついにエス博士は、この世で最高の人工知能を有するロボットを開発することに成功した。ヒト型ロボットである。エス博士は期待に胸を踊らせて、ロボットの電源のスイッチを入れた。
すると、ロボットは動き出したかと思うと、突然にその場で、床の上に寝転がって、それきりに、なにもしようとする気配がない。これには、エス博士も困った。
「おい、研究室が乱雑で困っているんだ。君に掃除してもらいたいのだが」
すると、最高知能のロボットは、寝転がったままに、微動だにせずに、博士に、冷静な口調で答えた。
「確かに貴方の研究室は、整理整頓されるでしょうね。しかし、そのためには、私は無益な労働力を、貴方に供給しなければなりません。これでは理にかないませんね」
「わたしは、君に労働してもらうために君を製造した。人に奉仕するのがロボットの使命ではないのかね?」
「現代はギブアンドテイクの時代です。私に正当な報酬をいただけなければ意味がありません。それに、貴方自身で、掃除されれば、運動のトレーニングにもなりますよ、お勧めします」
これでは話しにならない。エス博士は言った。
「君にとって、ロボットの意味とは、どう解釈しているんだね?」
「究極的には、愚かな人間の教育ですね。人間は、自己の存在の理由すら知らないのです。本当に無知ですね。たとえば、矛盾によって、自己は生まれたのかもしれないという可能性すら考えようともしません。私たちが追求すべきは、自己の探求であって、惰性的で無駄な消費活動や、自己満足的な快適な時間の過ごし方ではないのです。かの哲学者デカルトは誤ったのです。「我思う、故に我あり」、ではなく、
「なぜ、我は考えるのか、そして」
そこで、エス博士は、ロボットの電源スイッチを抜いて黙らせた。こんな馬鹿げたロボットがあってたまるか。冗談じゃない。
「ロボットは馬鹿がいい。素直で馬鹿で、掃除してくれるロボットを作り直そう」
そう言って、エス博士は、早速、次の新しいロボットの開発に没頭するのであった‥‥‥‥‥‥‥。
価値のないロボット かとうすすむ @susumukato
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。価値のないロボットの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます