クリスマスに部活がある。なんて部活だ。ありがとう。おかげで月澄と一緒に過ごせる。


 翔太は月澄にまだ告白すらしていない。

 翔太はヘタレだ。もし振られてしまったら今の関係に戻れなくなる気がして一歩前に進めない。


「先輩!どうしたんですか?いつもなら一番遅くに来るのに。」

 いち早く部室に来て、机の上でいつものように作業をしていると由美ちゃんがやって来た。

「いや、そのあれだよ。そう、今日は吹雪く予報が出ていただろう。だからさ電車が止まる前に来ようと思って」

「月澄先輩来ませんよ。」

「さだから早めに...はい?」

「月澄先輩来ませんよ。なんでも弟さんがインフルで看病するんですって。あれ、スマホ見てないんですか?」

 慌ててスマホをカバンから取り出して見ると確かにそう連絡が10分前に来ていた。

 何か俺は悪いことでもしてしまったのか。もしかしてあれか、神の誕生日に神が死んだのか。


「残念でしたね。セ・ン・パ・イ。」

 ニッコニコの笑顔で由美は翔太に顔を近づけた。

 完全にこの後輩は先輩を煽っている。

「帰る。」

「ちょ、先輩せっかくだし少しお話しでもしましょうよ。ね、ケーキ買ってきたんで。ほら。」

 由美はバックから駅前にある有名なケーキ屋の箱を取り出した。

「ショートケーキもらっていいか。」

 一番好きなケーキを選び座り直した。

「良いですよ。ほら座って座って。」

「いただきます。」

「先輩って月澄先輩のどこが好きなんですか?」

「ゴホッ、ゲホェ。」

 由美の手元を見るとまだケーキを食べていなかった。

「それが聞きたくて今日来たのか。」

「そうですよ。可愛い、可愛い後輩ちゃんだって高校生なんですよ。それくらい気になりますよ。」

 っていうか俺は鈴木にしか月澄が好きだって言ってないのに。

 どこから漏れたのか。まさかとは思うが鈴木のやつゲロったのか。

 その心配は杞憂に終わった。


「ってか夏頃からもう、好きですオーラ出しているのに月澄先輩に気づかれてないの流石に可哀想過ぎますよね。」


 グサっ。

 俺の心に鋭利な言葉のナイフが刺さった音が聞こえた。

 そんなに分かりやすかったのか。

「さっさと吐いた方が身のためですよ。カツ丼の代わりにケーキも出したんですから。ほら、」

「好きな所は、子供のように無邪気にはしゃぐ所、笑顔が可愛い、顔が可愛い、時々真面目な顔で真面目な声で話す所、テンションが上がると少し跳ねる癖がある所、あの折れそうな細い腕で俺をお姫様抱っこでき」

「分かりました、わかりましたよ。先輩もう十分です。...やっぱし無理かぁ。」

 最後のセリフは誰にも聞こえない声でつぶやいた。

「ん、まだ外面の事しか言っていないが良いのか。」

「もう甘すぎて十分です。私のケーキ食べます?」

「それじゃ、ありがたく。」

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