正義感なんてないのに、強制的に「悪霊退治」させられています!

saku

第1話 普通の幸せが終わる時。

 

 祖母からは休めと言われたけれど、1学期最後の期末テストのために必死で勉強してきた。なんとしても大学推薦を勝ち取りたい。あと0.2内申点をあげれば、希望の大学推薦が手に入る。


 とはいえ確実に熱がある。それにこのところ悪夢にもうなされている。受験生あるあるだが、私の場合、子供のころ、見た夢と似ているような気がする。


 体のだるさもあり、念のためにいつもの電車よりも2本早めに乗った。ドアの側に立つ。田舎の3両列車。乗り換える駅で急行に乗り、40分。目的の駅に到着後は、自転車で学校まで20分。高校まではかなり距離がある。頭がぼんやりしてきた、思考がさだまらない・・・。


「おい。」と言う声とともに、おでこを突かれるような感覚があった。


「おい、ふざけんなよ、目を覚ませ。」「おいっていってんだろ、おいこら、起きろブス。」段々と声がはっきりと聞こえてくる。ブスだと? ぼんやりしていた頭が少し正気に戻る。誰がブスだって?そんな失礼なことを言うやつは。


 電車内を見回すと、車内の人たちがみな、息苦しそう。顔面も蒼白。バタンという音と同時に口から泡を吹いて倒れた者もいる。何、毒? 何かのテロ? そんな光景の中で、私の立つドアの位置から対角線上にいる男と目が合う。何、あいつ・・・。何故、目が・・・青く光っているの?


 次の瞬間、青い矢のような光に押し出されて、私は駅のホームに飛ばされた。しゃがみ倒れ膝をつかされる。そんな私の左腕を掴んで怒鳴っていたのは青い目の男。


「お前、誰だ。何をした?」


 何が起こっているのかわからない。ただ私はその場から離れたかった。彼をにらみつけると、彼の左手の小指が透けている。

「拘束。離れろ。」頭の中で、そんな言葉が浮かんだ。



 私は乗り換えの駅にいた。

 急行に乗り高校へ向かう。やはり、熱が上がってきたっぽい。駅に着き、月極で契約している自転車置き場にある自転車を受け取り、高校へ向かう。いつもなら友人が何人か、一緒になるはずなのに。そうか、今日は2本早く電車に乗ったんだった。


 自転車をこぎながら、左の二の腕当たりにずきんと痛みが走った。ぼんやりとした思考の中で、青い目が浮かぶ。なんだったっけ、あれは・・・? 


 左の二の腕に残ったつかまれた跡。痣となって残っている。


 

 テストを終えた。だるい体を引きずり、なんとか祖母の家の最寄り駅に到着。ここからまた自転車で15分かかる。祖母の娘にあたる母が亡くなり、父が祖母に私を預けた。幼稚園に入る前から祖母の家が私の家だ。


「ただいま。」と引戸をガラガラと開けて入ると土間が続く。祖母が珍しく、出迎えた。いや、待ち構えていたというほうが正しい。顔を見ると祖母の目は私の後ろを見ている。振り返れば、夢の中の・・・、腕をつかんだ男が立っていた。


 「とんだ訪問客が来たね。氷帝ひょうてい家の者か。弱っている孫につけこんで結界を壊して入ってくるとは。」

「こちらこそ、どういうことなのか詳しく説明を聞きたいですね。ここは神大じんだい家ですよね。神大家には子供がいないはずでは?」

 いや、うちは鈴森家ですけど? ふたりの会話がまったく読めない。


 「隠してきたんですね、卯月様。どうしてそんな愚かな選択をなさったのです。いっときの幻の幸せよりも、国のため、彼女自身のためにもなりません。」


 彼が祖母を叱っているような声がする。

しかし私は熱が・・・。熱さえ上がっていなければ色々と物申したい審議が・・・。私はそのまま、おそらく、意識を失った。





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