違いを超えて
「やった、やったぞ!」
彼らの歓喜の声が聞こえる。
その声につられて別の場所にいた囚人たちも集まってくる。
いつしかこの場所は囚人たちでいっぱいになっていった。
囚人たちの喜びの声。
「とりあえず、何か食わせたほうがいいんじゃないのか?」
シュトラッサーはそう言うと部下に指示を出す。
しかし、そのとき広希がストップをかける。
「待ってください!!」
「えー、なんでだよ」
周りから困惑の声が広がる。
「シュトラッサー、それからみなさん。彼らにまだ固形物を与えないでください」
広希は彼にくぎを刺すように注意する。
「何か理由でもあるのか?」
シュトラッサーが質問する。
「極度に飢餓状態になったりして衰弱した内臓に固形物は負担が大きすぎるんだ、まずは消化のよいものを取らせてからでないと、それも液体の……」
広希が説明し出す、かつて恵まれない人たちを救うために様々な事件を学んでいた彼はそう言ったことも勉強していた。
「消化に良い物液体、何かあったか?」
シュトラッサーが考える。
そこにいた勇人が言葉を発する
「ココナッツミルク?」
「ん?あるのか?」
それに対して広希が問い詰める。
「ああ、それも俺達の村で栽培しているのは消化のよさはかなりのものなんでな、今俺も少し持ってる。ちょっと持ってくるよ」
タッ
勇人がこの場を離れる。
「ちょっと待てよ!!」
そこに異論を唱える者が現れる、エルフ独立党の兵士が
「何で人間達に俺達の食料を分けなきゃいけないんだよ、俺たちだって食料に困っているのに……」
「そうだそうだ」
1人の意見を皮切りに周りからも賛同の声が飛ぶ。
「まあ、こういう意見も出るだろうな、こっちだって難民が流れてただでさえ食糧事情は悪くなってるんだ、ましてやそれを敵対している人間たちになんてな……どうする?」
シュトラッサーが問いかける、どうするのかと
「ふっ、ずいぶんと難しいことを」
広希は笑みを浮かべながら答える。
「最後まで攻略すればいい、首都まで攻略して共和国全体を納めれば解決するでしょう」
え?
予想もしなかった答えに周りがざわつく。
「あんた、自分が何言ってんのかわかっているのかい?」
シュトラッサーが驚いた表情で質問する。
「わかってるよ…戦ってきたからわかるが、相手の軍の士気は低い。恐らく何だ戦っているかわかっていないのだろう。祖国は腐敗を重ね、国民を守らない、だから前線から逃亡者も出てるって聞いた」
「明日、俺は世界中に向けて演説をする、これで俺達の理念を先鋭に表す。そう、世界で初めて全ての種族は平等な権利と明記する全種平等法を打ち出す。
そして訴える……俺達とともに戦おうと。争い合って奪いあう歴史に終止符を打つために」
広希は語り出す、かつての恩師からの夢をかなえるために
まだそれは空想かもしれない、でもその1歩を踏み出すために
「ま、勝手にしてくれ、問題はどうやって攻略するかだ、そんだけ大それたことを言ったんだ…なんか策はあるんだろうな?」
彼の夢を聞いてどこか笑ったような顔のシュトラッサーが質問する。
「ああ、大体目星は付いている」
目的の首都ラグナシアは街のほとんど四方が山で囲尭されている。
難攻不落の天然の要塞。陸路から大攻撃を仕掛けようとするならアクセスはただひとつ,南の平野から山波を切り通して入る国道72号線のみ、この国道をどちらが確保するかが支配者を決める決定的な鍵となります
「それに、力強い援軍も取り付けてきた」
広希がそう言うと、その証拠の紙を取り出し、彼に見せた。
そこにもう1名話に入ってくる。
「話がある」
エルフ自由同盟、総裁、センデル・ヒップラー
シュトラッサーより二周りは年上であろう白髪の老人。
彼の兵士たちもまた前線で戦い、エルフの軍を勝利に導いてくれた立役者だ。
しかし今までは思想の違いから対立を繰り返してきた中でもある。
「彼らを解放したい。あの数を私たちエルフの支持者として取り込めばかなりの数になる。それこそこの共和国の中でも立場を強く出来る」
いつも通り彼らはエルフにこだわらず支持者であればどんな所属でも取り込もうとしていた。
しかしシュトラッサーがそれに待ったをかける、飽きるほどみた光景だ。
だが今回ばかりは話が違った。
強大な敵との対決、収容所の存在、思想の違いを超えて共に戦う必要に初めて気が付いていた。
「まあ、俺達だけじゃあどうにもならないところまでこの問題は来ている…あんまり変な奴まで来るのも問題だが、認めよう……その考え」
シュトラッサーが口を開く。
「んまあソナタから歩み寄ってくれたんだ、こちらも認めよう……共和国との戦い、首都への攻略へ力を貸そう」
センデルが歩み寄りを見せる。
対立を繰り返してきた2人が歩み寄るという今までになかったことが起こり、会議は進展していった。
そこに広希が口を開く。
「次は収容所だ俺達の目で直接見てみよ…う…」
そして収容所の探索が始まった。
収容所を探索した結果、逃亡してきた者の証言は当たっていた。
人体実験の跡地、そばに会った資料を見る、ここ最近で行われたんじゃない……何十年にもわたって行われていたようだ
拷問部屋
壁には誰のものとも分からない血が付いていた
そして奥へ行くと白骨死体が山のように捨てられていた、様子を見るに何十年にもわたって行っていたようだ
それを見たカーニャが囁く。
手を合わせて彼らに祈りをささげながら
「絶対に風化させない、それが……ここで散っていった者たちの気持ちに唯一答える方法だ」
「ああ!!」
勇人が同調する。
そこに誰も予想しなかった人物が現れる
「これは歴史的犯罪だ!これを解放した俺達は英雄になれる可能性すらある、この後の展開次第ではな……」
その声に思わずその場が凍りつく、そしてカーニャが叫ぶ。
「マンネルへイム!!」
「何しに来た?手柄でも横取りに来たのか?」
睨みつけながら問い詰める広希。
突然の出来事にシュトラッサーとセンデルは言葉も出ない。
「おいおい……俺は敵なんかじゃないぞ、本当に敵だって考えていたら貴様らはすでに消し炭だ。援軍に来てやったんだ、いくらこっちの士気が高いからって数が足りない、敵の抵抗もこれから激しくなっていく。お前だってわかっているだろ、喜べよ、お前の願いを叶えてやっているんだぜ」
うすら笑いをしながら語り始める。
「うっ」
広希はうまく反論できない、確かにエマナ達の援軍が来るって情報は来ていた、しかしそれだけで数が足りるかはわからない、それに俺達を裏切るのであれば今ここで全員殺しているはずだ、彼にはそのくらいの強さはある。
確実に作戦を成功するためには仕方ないか
そして、配下にココナッツミルクを用意するよう本国へ要請した
さらに、力を合わせることを決め、会議が再開した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます