異世界転生・ダメ人間と呼ばれた勇者の冒険物語
KJモバイル
旅立ち
勇気を出して、そのドアの先へ
2017年7月2日
とある高校の教室
放課後、17時ごろ
夕焼けが見える薄暗い教室の前に彼はいた……
「じゃあ、行って来なさい」
海輝「わかった、行ってくる」
告白。
言葉にすればたった二文字でもその言葉を思い至るまでには長い葛藤があった。
それでも彼は、洋泉海輝は、今まさに思いを告げようとしていた。
手のひらには汗がじわりと滲み出し、全力で疾走した直後のように心臓が激しく鼓動する。
視線は落ち着かず、時々口から漏れる息は言葉とならずに夕暮れの教室に消えてゆく。
それでも何とか自分を落ち着かせようと、海輝は一つ深い息を吐き自分の事を振り返った。
「何の取り得もない」とは自他共に認める評価である。
そんな自分を改めるべく、意気を発して何かにチャレンジした事もたびたびあった。
だが結果は推して知るべく散々なもので「彼」はいつしか周囲から“ダメ人間”と呼ばれるようになっていた。
(春果が背中を押してくれてなかったら、告白なんて大それたこと考えなかったかもな……)
しかしそんなダメ人間を、何の取り得もない彼に、いつも明るく声をかけ続けた少女がいた。
“宗谷春果”
活発に揺れるピンク色のショートヘアーがその性格を表す彼女は、お互いが幼い頃から隣同士の家に住んでいた縁もあり、幼馴染である海輝のことを気にし続けていた。
「頑張って!!」
春果がそう応援して肩を押す。
(いつものおせっかいか)
彼はそう考えた。
彼女はいつもそうだった、なんだかんだ言っていつも彼の事を思ってくれる人だった。
(ありがとな)
彼はそう心の中で礼を言い、部屋に入る。
「じゃあ、行ってくる……」
そう言って覚悟を決める。
ドアを空ける。
「さん、俺、実は……」
彼は意識しすぎてうまく話せない。それでも何とか気持ちを伝えようとする。
「ああ、メアド教えてほしいって?」
天北望美、海輝があこがれていた人、いつも元気で明るくってスタイルもよく何よりも
1人でいるときに僕を気にかけて話しかけてくれた。
「海輝君、珍しいね…君から話しかけてくるなんて……」
彼はわかっていた、彼女は誰とでも気兼ねなく会話するタイプだ、半年くらい転校するのが中学から何回かあったけど、それでも学校にいるときは良く話していた。
「まあ、メールぐらいは出来るようになったほうがいいしね!!」
いつの間にか彼は彼女を好きになっていた。
それを口実に彼は彼女を呼んだ……
(そうだ!!いや……そうじゃない!!)
心の中でそう思ってもうまく話せない、しかし彼は想いをこめて告白する
「俺、お前のことが……す」
自分の感情を全てこめる
その時
ピカッ
まばゆい閃光、視界が真っ白になる。
目を空ける海輝。
「あれ……」
目を空けるとその光景に驚く。
そこに彼女はいなかった。
予想もしなかった出来事に言葉を失う海輝。
ギィ
ドアが開く
「あれ……」
そこにいたのは春果。
「あんた?何やってんの?」
彼女が話しかける、何でそこにいるのかを疑問に思うように──
「何って望美が急にいなくなって……」
信じてもらえるかわからないかった、でも今起きたことを彼は精いっぱい話した。
そして次に発する言葉、その言葉で俺の運命が大きくうねりを上げる。
「誰それ?そんな人いたっけ?」
まったく予想しなかった答え、彼も全く反論できなかった。
「え?」
そして唖然としている中、その返事だけが彼の口から発せられた。
「って私これからバイトなんだ、じゃあね。」
そう言って彼女は立ち去る。
この時はまだ理解していなかった。彼は何が起こったのかを
次の日の同じ時間、海輝は同じ場所にいた。
望美に思いを告げようとした場所。
「どういうこなんだ……」
そう考えるしかなかった。
学校に彼女はいなかった。それどころか彼女の机もない、聞いても誰もそんな人は知らないと答える。
つまりこの世から彼女の存在が抹消されていたのだった──
(あれは幻だったのか?)
彼はそう考えながら思い出し始める。
あの望美との記憶、友達作りに苦戦していたころ、昼飯の時間。
物陰に隠れながら一人で食事をしていた時。
「やあやあ、海輝君」
春果が彼に満面の笑みで話しかける。
「な、なに?」
誰もいない一人のはずなのに……
彼女がいきなり話しかけてきた。
その事にただ驚く
「ふふふ……どうしたの?1人でいたから話してみた」
おどけた表情で腕を組み、自信たっぷりな表情。
彼女は小学生の時からそうだった、普段話したことがない子にもよく話しかけていた。
そして今回は海輝だった。
「なに?友達作りに苦戦しているだって?」
相談に乗ってくれた彼女が第1に発した言葉。
高校に入ってから中学からいた人とは離れ離れになった、森垣広希や安川景みたいに、同じ中学出身もいて、打ち解けてはいるが、彼らは誰とでも打ち解けるタイプで特別友人というわけではなさそうだった。
もともと社交出来てない海輝はなかなか自分から話しかけられず、こうなったわけである…
それから2人でよく食事をとっていた、聞くところによると、家の事情で中学のころからどうしても3カ月や半年、ここを離れなければならなくなっていたらしい。
そして海輝は彼女にはあこがれ、好きになっていった。
もっと彼女といたい、そう思うようになっていった。
そう考えながら海輝はあたりを見回す。
(彼女との思い出は、幻だったのか……)
そう考え始めたその時。
(ん?)
何かに気付く海輝。
窓際の机に手紙、上に置き石。
(誰かへのメッセージか?ここに?)
手紙を手に取る。
1番上にあるイニシャルに思わず驚く、彼の心臓の音が今までにないくらい耳に響く。
N・T
思考がフリーズする。
まさか──
望美・天北……
彼がイニシャルを見た瞬間体に戦慄が走る。
そして慌てて中を空ける。
手紙を読んでみる。
そこには地図。その場所は学校の屋上に矢印。それと日付、7月2日
(ここに…答えが?今日は7月1日、明日?)
そして1枚の紙を手にする
彼が内容をよく見る
彼の脳裏の中で内容を要約する
あなたと会えた事はとてもよかったと思っている
でももう私は追わないでほしい、出会ってもあなたが望んでいる私ではないから
それでももし会いに行くのなら、命をなくすことも覚悟してほしい
しばしの沈黙が流れる、そして彼は結論を出す。
「行ってみよう」
次の日
放課後、4時半ごろ。
海輝と春果は地図の通り学校の屋上へ向かった。
「何で私も一緒なのよ!!」
春果がちょっと怒った顔をする。
「1人では俺が何かあった時にこの事実を伝えられない、だから来てほしい」
と彼は春果に頼んでここに来てもらった。
ただしこれはあくまで建前で本音は何か怖いからであった。
2人は屋上のドアを開け、階段の建物の後ろ側に回る。
海輝が囁く。
「これか……」
地図が指し示した場所に視線を送る。
その先にはドアがある。
「こんな屋上の裏にドアなんてあったっけ?」
彼女が疑問を持つ。
その中央にドア。真っ黒で何かこの世界の物ではないような模様に見える。
どこか不気味さを感じる。
触ってみる。
金属で出来ているようだ。
取っ手を取りドアを空ける。
──キィィィィィ
その先には暗い道。先に進もうとする。
すると春果が呼びとめる。
「ちょっと」
「私いかないわよ、怖いもん……」
彼女は海輝の服の袖をつかみながら話す。
その手は震えていた。
「わかった、じゃあ一人で行く、だからここにいて」
彼は彼女のことを考え、1人で行くことを告げる。
「何でよ?やめなよ……」
彼女は心配になり、引き留めようとする。
「俺だって怖いんだ、でも行かせてくれ!!」
それでも行くのをやめない海輝、行きたいという事を告げる。
「あきれた、もう、わかったわよ」
春果は彼の熱意に呆れて説得をあきらめる。
ギィィィィ
彼がゆっくりとドアを空ける。
カッカッ
怖いので入口で春果にドアを開けてもらったまま先へ進む、中は薄暗い雰囲気。
壁を触ってみる。
人工的に作った様な壁。
ところどころ直線的な跡がある。
5mほど進んだところ。
そして目の前にはまたドア。
キィィィ
そっと開けてみる。
うっすらとしたろうそくの光が部屋を薄暗く照らす。
彼は部屋の中を見てみる。
部屋の中にあった物。
それは絵だった、2人の人間に見える生き物が目を合わせている絵。
その時、入口から叫び声が聞こえる。
春果「ちょっと、ドアが!!」
入口から大きな叫び声、彼は慌てて走って戻る。
入口
海輝は彼女に問いかける。
「どうした?」
「さっきからドアが勝手に閉まろうとしてるの!!」
必死にドアを押さえながら春果が訴える。
「え?」
それに驚く海輝。
「それで、どんどん力が強くなって!」
下にはドアが閉まらないように置き石が置いてある。
彼は直感的に感じる、彼女の手がかりはこのドアの先しかない、このチャンスを失ったらもうチャンスはないかもしれないと──
そして思い出す、ここ1番のときに、怖くなって逃げ出して…気付けばこう呼ばれていたこと。
「この……ダメ人間!!」
彼は一瞬考える、そして、答えを導き出す。
「俺は、先へ進む!!」
そう叫ぶ、
俺は……自分を救ってくれた彼女を救いたい!!)
そう決心した海輝。
そして置き石をけっ飛ばす。
ドン
ギィィィバタッ
ドアが完全に閉まる。
シュウゥゥゥゥゥゥ
春果「ドアが、消えた……」
そして春果の目の前にあるドアは消滅していった。
タッタッ
彼は振り向かずにゆっくり歩いた。
心の底から湧き上がる怖さに耐えながら──
ドアの先の道を進んでいく。
そしてもう1度あの部屋に戻る。
部屋に向こう側にもう1つのドア。
「彼女がいる可能性はこの先にしかない」
ドアをそっと開ける。
(怖い)
彼はそう感じていた、証拠に彼の手は震えていた
しかし彼の足は止まらなかった。
そして彼は勇気を決める。
「俺はもう、ダメ人間なんかじゃない!!」
「俺はお前を忘れはしない、世界中の誰もが忘れても……」
そして彼は、ドアを空ける。
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