第2話 心強い協力者

 奇跡的に持って来ることが出来た一冊の本――タイトルは『狡猾な詐欺師たち』。

 それは没収を防ぐため、認識を阻害する魔法を掛けた十冊の内の一冊で、他の物は見破られたがこいつだけ部屋に残されていたのである。

 天井から下げられた照明器具の傘の上に隠したのが良かったらしい。


「お利口だね、君は」


 本を参考に効率的な金稼ぎ方法を考案している横で、クロンは馬を撫で回して遊んでいる。

 なぜ馬がいるのかと言えば、所持金がクロンの持っていた一万ウイスのみで、格安の馬小屋に寝泊まりする他無かったためである。

 ……とはいえ、もたもたしていると生活費でその一万も消えてしまうのだが。


「……クロン、考えてみたんだがどう思う?」


 そう言いながら馬をヨシヨシと撫でる彼女に紙を見せると、お遊びモードだった顔が仕事中のそれに切り替わる。

 年下だというのに緊張感のある雰囲気に、馬と共に気圧されながら見守っていると。


「これ、どうやってお金管理するんですか?」


「最初は俺たちで。大きくなってきたら人を雇う感じでやろうと思ってる」


「最初は大変になりそうですね」


「おう。後はいかに説得力を持たせるかだけど……考えがある」


「どうやるんですか?」


 そんな彼女に俺は付いて来るよう言い、金の儲け方をまとめた紙を懐に入れて馬小屋を発つ。

 大通りに出た俺たちはそこに面する『冒険者ギルド』と書かれた看板を掲げる石レンガの大型な建物へと向かい、察した様子のクロンにニヤリと笑って見せる。


「もう分かったろ?」


「魔物の駆除してるって話してましたもんね」


 そう言ってフフっと笑った彼女と共に建物へ入る。

 ピーク時間を過ぎている事もあって中にはほとんど人がおらず、併設されている酒場や遊技場では金に余裕のありそうな冒険者たちが呑んだくれている。

 そんないつも通りの光景を横目に受付へ近付けば、俺の顔を見た職員が慌てたように奥へと引っ込んで行き。

 しばらくしてガタイの良い男が現れ、その手には書類の束が握られている。


「久しぶりだな、アムストロ。話は聞いてるぜ? 災難だったな」


 彼の名はバルヒェット、ここ冒険者ギルドで所長を務める人間だ。

 

「話が早いな。その事でちょっと話があって来た」


「何だ、専業の冒険者にでもなりたいか?」


「いいや、金儲けの話だ」


 俺の言葉で目の色を変えた彼は、依頼書の束を近くの職員にポ押し付け、受付横の『スタッフオンリー』の文字がある扉を開く。

 中へ入れば書類仕事に勤しむ職員たちの姿があり、それが数日前までの自分と重なって見え、思わずため息を吐きそうになる。

 二階の商談室へと招かれた俺たちは、彼に促されるままソファへと腰掛ける。


「で、金儲けってのは何だ?」


 対面に座りながら尋ねて来るバルヒェット。

 冒険者というのはいわば何でも屋。

 誰だってできる仕事であるが故に賃金は安く、金にがめつい者ばかりだ。

 目の前で興味津々な様子を見せるバルヒェットも元冒険者……間違いなく話に乗って来るだろうと思っていた。

 

 俺は懐から紙を取り出し、それを広げながらバルヒェットに見せる。

 受け取るなり目を皿のようにして読み始める彼に、確実に味方となってもらうためダメ押しの誘いをかける。


「俺たちがやろうと思ってるのは……そうだな、無限連鎖講とでも呼ぼうか。簡単に言えば入会金で大量に儲ける仕組みだ。加入者を最初に何人か用意する必要はあるが、後はそいつらに勧誘を任せておけばどんどん加入者が増えて行く」


「……一人が二人以上を勧誘することが出来れば、ネズミみてえに金蔓が増えていくって事か。確かに金は稼げそうだな」


「まあ、あくまでも理論的には可能ってだけなんだけどな」


 人口に限りがある上に騙されない賢い人間のことだって考えると、数年程度で限界にぶち当たるはずだ。

 それは彼も察した様子を見せ、悩ましそうに紙を机に置く。


「そのうち崩壊するってのは気に入らねえな。何かねえのか?」


 そんなことを言われても……。

 と、クロンが思い付いた顔をする。


「あの、ギルドの取り扱ってる素材なんかを会員に買わせて、それを売らせるって言うのはどうですか?」


「……それただの営業じゃないか?」


「そこにアムストロさんの無限連鎖講を組み合わせるんです。勧誘者は後から入った人たちの入会金と売り上げ金で稼げる……そんな風に話せば、やりたがる人はたくさんいると思います!」


 言いたい事は何となく分かった。

 と、バルヒェットはにやりと笑い、片手を差し出す。


「良いぜ、手を貸そう。アムストロには色々と借りがあるからな」


「よろしく頼む」


 真面目に魔物駆除を頑張った甲斐があったというものだ。

 ……これなら宮廷魔術師なんかならずに、会社を興していた方が安泰だったかもしれない。

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