王様メロン
水田 文九
第1話
私は勇者だ。
勇者と言うのは悪者を捕まえたり
魔王を滅ぼす者を言う。
今日も朝から至急の用事とかで、メロン王国から
『助けて欲しい!』との連絡が届いた。
そういえば昨日寄った村でも
メロン王国で今何が起きているのか
いろいろな噂を耳にした。
なんでも鼻と目の間に長いツノが一本生えていて
口には長い牙が生えている
山のように大きなイノシシがメロン王国で暴れていると。
仕方がない。
昨日まで北の果て都で暴れていた一つ目の大男を倒したばかりで
いささか疲れてはいたが、多くの民が困っているのを黙っているわけにもいかないのだ!
と思いながら昨日までの依頼された北の果て都での討伐依頼内容を思い出していた。
北の果て都で暴れていた一つ目の大男は都近くの
北の森に住んでいた。
大男と言うだけあり、背丈は幌馬車程もあり
筋骨隆々で巨人と言ってもいいほどだった。
突然都に現れた一つ目大男を見た都の人々は
その大きな姿とやはり大きな一つ目に睨まれ
恐れおののき大勢で一つ目大男を追い払おうとした。
追い立てられ更に追い詰められた一つ目大男は
大きな声を出し都の者たちをさらに驚かせてしまったのだった。
そこで北の果て都の王様から依頼を受け
私が出向いたのである。
実は私は依頼を受ける前から
一つ目大男がなぜ北の果て都に出没したのか
うすうす気付いていた。
いつもなら沢山の山の恵みがある北の森なのだが
今年はあまり雨が降らず食べる物に困り
住んでいる山を降り北の果て都にまでやってきたのだった。
最初、一つ目大男は食べ物を分けて欲しいと都の者たちに
言って回ったがその姿を見た人々は恐れおののくだけだった。
なぜ私が見てもいないのに、そんな事を知っているのか不思議に思うかもしれないが
勇者たるもの、いつも冷静に
小さき声をないがしろにせず
大きな視野で物事を見つめれば、おのずと分かってくるものなのである。
そんな訳なのでとぼとぼと歩いていた一つ目大男を見つけ
『やあやあ我は勇者なりー!』と大きな声で名乗り
あごをクイクイと森の方に動かし
一つ目大男を追い立てるように森に誘導した。
人目に付かない森の奥まで来たので
『やあ君、こんな所より良い所があるから私と一緒に来ないかい?』と一つ目大男に言ったのだ。
行く当てをなくしていた彼は素直に付いて行くと答えた。
そして私が生まれ育ち今でも住んでいる森の集落まで彼を連れていったのである。
私は一つ目巨人が怖いのは見た目だけで
話の分かる良い奴なのを知っていた。
怖い怖いと騒ぎ、大勢で攻撃する北の果て都の者のほうが
よっぽど怖いのである。
私は生まれ育った集落の者たちに一つ目大男の事を話し
この森に住まわせたいと皆に頼んだ。
この集落出身の勇者である私の言葉を皆はすんなりと受け入れてくれた。
当たり前である。勇者の言葉とはそれ程に重いのだ。
と言うか、その大きな姿を見た集落の者達は
こんな頼りになる者はいないと喜んでいた。
一つ目大男も今まで住んでいた北の森を離れるのは寂しいだろうが
なにせ北の森に比べると、この集落がある森は桁違いに豊かなのである。
そこは我慢して欲しい。
そうして北の果て都の王様には
『一つ目大男は打ち取ったりー!』
勝ち狼煙をあげ、たんまりと褒美の賞金をもらい
その金を集落の者達へ配ったのだった。
と、そんなこんなが昨日までの話である。
新たに依頼を受けたメロン王国には海があり
その風景は昨日までいた森深い景色とはまったく違うものだった。
メロン王国へ行く道すがら、要所要所で話を聞き込みながら進む。
と、途中寄った商店で気になる話を聞いた。
なんでもメロン王国の王様は
もっともっとと大量のメロンを栽培する為に
ドンドンと森を切り開き、メロン畑を作っているのだと。
なるほどと私は考えた。
昔からメロン王国の王様は欲深い性格をしているともっぱらの噂だったのである。
メロン王国に着き城に向かう道すがら見たのは
そこらじゅうに空いている穴だ。
家の塀や看板、城の外にあるメロン王国の王の銅像にも
ぽっかりと穴があいておりメロン王というより
ドーナツ王みたいになっている。
城の中に招かれ、王に拝謁となった。
王が私にこう語った。
なんでも突然襲ってきた大きなイノシシは
隣の獣王国の【シシマル】と言う名の有名な暴れん坊なのだとか。
度々訪れては暴れるシシマルだったが
メロン王国の兵士ではまったく歯が立なかったのだ。
『どうかこのメロン王国を助けて下され』と懇願されたのだ。
『王よ、見事この国を救ってみせましょうぞ。』
そう言って私はシシマルのいる獣王国へと向かったのである。
海岸線を馬に乗り獣王国へと入ったのだが
何やら以前と景色が違う。
確か前は海を見下ろすなだらかな草原だったのだが
いまは土を耕やされ一面が畑になっていた。
近くにいた獣王国の民だろう者に声をかけてみる。
『我は勇者なのだが、ここは随分景色が変わったようだが?』
そう声をかけると
『これは勇者さま。仰る通り、以前ここは草原でしたが
いろいろあり今はメロン王国のメロン畑になるようです』
そう答えてくれた。
詳しく聞いてみるとここの住民はあの手この手でメロン王国の物に騙され土地を取り上げられたとのこと。
どうも裏ではメロン王国の王様が策略を巡らせたらしい。
それを知ったシシマルは怒り
単身メロン王国に乗り込み直訴しようとしたそうだが
メロン王国の都へ入る前に王国の兵士達に攻撃されたのだった。
私はシシマルは何処にいるのか聞くと
シシマルの所まで案内してくれることになった。
シシマルは暴れん坊と聞いていたが
本当のシシマルの姿はこの国の英雄だと獣王国の者達は口々に伝えてきた。
程なくシシマルの所に着いた。なるほどデカイ。
並みの兵士が何人掛かろうと、かないはせぬであろう。
『やあ、私はメロン王国の王に頼まれやって来た勇者である』
『勇者様、私のしでかした事で勇者様の手を煩わすことになってしまい申し訳ありませんでした』
そう言ってペコリと頭を下げた。
『シシマル殿よ、ひとつ提案があるのだが聞いてはくれまいか?』そう言うと
『なんなりと』とひとこと返してきた。
『私は今回の一件をいっぺんに解決したいのだが
そのためにシシマル殿
その立派な角を私にいただきたいのだがさてどうかね?』
『そう言う事なら勇者さまに全ておまかせ致します。
しかし、わたしめのこの角、なかなかに硬いので切れるでしょうか?』
『なに、歴代勇者に伝わるこの剣であれば問題なかろうよ』
『それではひとつ私からお願いがございます』
『何だね?』
『出来ればこの牙もスッパリやってはいただけないでしょうか?』
『なんとその立派な牙を切れと』
『はい。実は物を食べるのに邪魔で邪魔で、食器などひっかかりまくりでして』
『分かった。スッパリやってやろうではないか!』
そういってふたりは向かい合い大きく口を開けて
「わあはっはっは』と笑いあった。
そして勇者はすらりと剣を抜き
角と牙の根本を スッ となでるようにしただけで
雲を切るようにあっさりと角と牙はゴトリと床に落ちた。
これを見たシシマルと周りの者達は息をのむのだった。
『勇者様。これは驚愕ものですな!』
続けて『なんと顔が軽い!こんな重い物を私は付けていたのですね!』
シシマルはそう言いと顔を左右に振り振り喜んだ。
『私は一度この足で家に帰り、手伝いの物を連れてくるので
その間に、この国とメロン王国との境界を示す杭と縄を用意してはくれまいか?なに簡単な物でよいのだが?』
そう言うと
『勇者様の仰せのままに』
そう言い皆が頭を下げた。
私は言葉通り家に帰り
一つ目大男に手伝って欲しい事があると頼み
獣王国へと連れだったのである。
そして獣王国の者と助け合いメロン王国との国境に杭と縄で仕切りを作らせたのである。
頃合いを見図り私は、メロン王国の王様の前に報告に出向き
『メロン王よ、この通りシシマルの謝罪の証として叩っ切った角と牙をお持ちしました。』
そう言うと
『なんと我が街を穴だらけにした角をこうも簡単に…』
そう言って目を見開いた。
『なに、私にとっては些末な事。それよりも他国の領土を荒らすなど言語道断!
メロン王国と獣王国の国境に仕切りを作らせたので
そこを了解もなく超えた者がいたら私が赴き
即刻首を撥ねることになりましたのでどうぞご安心を』
そう言いギロリと王様を睨んだ。
【しまった!】というような顔を隠すように笑顔を作り
『大儀であった』
と言い褒美の金貨を渡された。
城の外に待たせていた一つ目大男と合流し
渡された金貨で果物の苗木や様々な野菜や麦の種を馬車一杯に買い込み獣王国へと向かった。
獣王国では多くの者が出迎えてくれた。
そしてその者たちへ馬車を渡し
『メロン王国が耕した畑に植えるが良いだろう。
もしメロン王国の者が文句を言ってきて仕切りを越そうとしたら【勇者に首を撥ねてもらう事になっている】と
告げるがよかろう』
そう言ってガハハハハと高らかに笑った。
そして一つ目大男である。
この始めて見る大海のある獣王国の景色を大いに気に入り
皆と一緒に国境の仕切りを作っているうちに心打ち解け
できればこの地に住みたいと言われた。
『そうだな、仕事はまだまだあるからな。後は頼んだぞ』
そう言いニヤリと笑い
一つ目大男とガッチリと握手したのだった。
さてそれから数日が過ぎ
メロン王国の王様に従者から報告が届いた。
獣王国にメロンを作らせようとだまし取った獣王国の畑には
勇者に仕えていると言う一つ目の巨人が立ちはだかった。
その者が言うには
『むやみにその仕切りの中に立ち入るならば
ただちに勇者様に連絡をし無法者の首を撥ねてもらう』
と言われたそうだ。
まんまとしてやられた!
そう心の中で叫び、メロン国の王様は唇を噛んだ。
しかし、メロン王国の多くの兵士さえ止める事さえ出来なかったあのシシマルをあっさりと御し
大きく禍々しい角と牙を持ち帰った勇者の力。
そして何よりも、角と牙の鏡に様にツルリと輝く切断面を見たならば
その勇者の実力は計り知れないと王様だけでなくメロン王国の重臣たちをも恐れおののいた。
勇者への恐怖とメロン畑を失った怒りのせめぎあい。
王様のつるつるしていた顔は
怒りで浮き出た血管と、その怒りを消化出来ない絶望で
顔中にできた皺とで
王様の顔は網目のようになり、みるみる何十歳も年をとったような顔になってしまった。
がっくりとうなだれるメロン王国の王様のその目に映し出されるのは
真っすぐにギロリと射ぬくあの日の勇者の眼差しであった。
おわり
王様メロン 水田 文九 @logical
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