ひとまず探る
教室を出て、外へと続く階段を降りてゆき、昇降口のようなところを出ると、円形の噴水広場に出る。
奥と左右に道が分かれている。
噴水の奥の道は、小高い城壁に立派な門前が遠くから見えることから、校外へと続いているようだ。
その校門の奥にさらに際立つ、天を突く巨大な城——王城だ。
陽光を受けて、キラキラと光っているのは、城に取り付けられている七色ステンドグラスのおかげだろう。
視線を噴水広場に戻し、左右にはそれぞれ魔法研究室、戦闘訓練所に繋がっているようだ。
行き先はもちろん、左右の道を進むことだろう。
さて、どちらに進もうか…
そう逡巡してると、後ろから誰かに肩を叩かれる。
「お?アデムじゃん。何してんのこんなとこで、今日は訓練場の方行かないんだな?」
燃えるような赤い短髪に、猛禽類を思わせる黄色い瞳。身長はアデムと同じくらいだが、体の節々を覆うしっかりと強調する筋肉が、彼の毎日の鍛錬の成果を、物語っている。
既知の人物だ。
自然と浮かび上がった言葉で、疑問を投げかける。
「ん?ああ、グウィドアか。いつもなら一日の講義が終わった後、1番に訓練場に入り浸るだろうに珍しいな?」
「あー、そうしたかったんだがよ…経済学と政治学の先生が追加課題だつって引き止められていたんだよ」
「それは普段からちゃんと授業を聞かないからだろう?それはグウィドアが悪い」
「だーってよぉ。槍振るうのにどっちもあんま必要ないじゃねぇか…」
ぷくっと頬を膨らませて、不貞腐れていた。
いつも通りだな、と。微笑ましい表情を浮かべ記憶の中にある人物と目の前にいる人物を頭の中で照らし合わせる。
グウィドア・ランツェ。
アデムの生家である、モナーク家に代々仕えている男爵家で、子供の頃からよく一緒に遊び切磋琢磨している親友である。
槍の扱いが非常にうまく、正に武闘派気質ではあるが魔法の扱い特に身体能力強化に長けており、遠中近問わずに多彩な攻撃を繰り出せる、戦闘の天才だ。
「それでもだ、グウィドア。何が役に立つかはわからないからね。ちゃんとやろう?」
「アデムも先生と同じこと言ってるよぉ。俺はお前に仕えて守る立場なんだから、腕っぷしだけで大丈夫だって!」
「そんなわけないだろ?てか、そんな立場じゃないし、お互い気安い仲だろ?気楽にいこうよ。
仮に補佐なら、腕っぷしだけじゃなくて俺に進言するだけの知能もないとな?俺ひとりだけの知見では限界があるから」
「………くぅ、おっしゃる通りで」
とても苦い顔をしながら、唸っている。
聞き分けはすごく良い。
だが、やはりというかなんというか…思考傾向が槍のことでいっぱいというか、そこに他の知識が入る余地がない…のだろう。たぶん。
「そうだ、アデム今暇か?あとちょっとしか、時間ないけど運動がてら、一試合どうよ?」
ニッと挑戦的な笑みを浮かべて、こちらを誘う。
んんぅと心の中で唸り、どうするか迷う。
アデムは直剣を、この体と頭が扱えることを知っている。
この世界の魔法も気にはなるが、剣術——もとい、武器を使った実践も気になる。
いずれは向き合わなければならない。どういったものか、確かめておくのも良いだろう。
「良いよ、一試合だけね」
「お?ほんとか?
やったぜ!久々だなぁ!いつも、イングリット先輩ばっか訓練してるからなー!うし!気合い入るぜ!」
ぴょんと飛び上がって喜びを露わにし、それを噛み締めている。
そう、いつもはエルナが王選を勝ち抜くために魔法や武術その他諸々教えて貰い、時には稽古に励んでいた。
エルナは、親の方針で王選を勝ち抜くための家庭教師として、ここ最近は常に一緒だったのだ。
まあ、今は良いだろうそんなことは。
だから、グウィドアと手合わせするのは久々だ。
「さ、行こう。門限まで時間がないしね」
「そうだな。アデムの親父さん厳しいもんなー」
噴水を横切り、訓練所がある方へと共に歩いてゆく。
前世では無縁だった戦い。初めての実践に少し心を躍らせる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます