第19話 アヴァロン
アマノ集落を離れてしばらく経った。私たちは今コノマ集落へ向かうため、楓の群生林の中を歩いている。ここに来るまでにもいろいろなことがあった。クルさんが森の中に生えていた訳の分からないキノコを食べて腹を下したり、楓の樹液をなめてみんな仲良く腹を下したり、思えば腹を下した思い出しかないが、それでも夏の新緑は美しかった。今度は秋に来てみたいものだ。実際に見たことはないが、秋の紅葉は赤や黄色に色づいて言葉にできない美しさだと聞く。私がひとり想像を膨らませ思いに更けていると、誰かがまたトラブルを起こしたようだ。
「あれ、ない…どこだ…?」
「どうしたんだタルマ。…勘弁してくれ…ただでさえここまで五日もかかっているんだぞ。お前たちの話だと今日の日没までには戻らないといけないそうじゃないか。」
「わかってる…ちょっと待ってくれ…あ、あったあった。すまない、大丈夫だ。」
「はぁ、まったく…」
エレグラが疲れた声でため息を漏らした。コノマ組の話では、今日の日没までに金目の物を用意できなければ、アヴァロンは集落の子供たちを皆殺しにしてしまうらしい。本来ならばもう着いている頃なのだが、キノコだの樹液だののせいで予定よりも大分行動が遅れている。私たちは先を急いだ。
数時間が経過した。暑かった日差しも随分と収まってきており、夕暮れが近いことを感じさせた。
「この先を抜ければもう集落に着く。…急ぐぞ。」
(…お願い、間に合って…!)
私たちは全力で走った。まだ間に合うことを信じて。そうして集落の大倉庫にたどり着いた時はまさに太陽が山に沈んでしまおうかという一歩手前であった。ラッカルは倉庫に着くや否や勢いよく扉を開けた。
「アヴァロン!」
「…なんだ、来たのか。…運のいいやつらだ、今まさにこいつらの首をはねようとしていたところだったぞ。」
そこには大剣を振り上げた端正な顔立ちをした青年と、それに怯える子供たちがいた。子供たちの様子を見るに、最低限の食料は与えられていたようだ。
(こいつが…アヴァロン…確かに強そうな雰囲気がする。でも…エレグラ辺りなら気付いてるんじゃないかな、こいつからは彗星の使徒ほどの気配は感じない…)
アヴァロンは振り上げていた大剣を静かに降ろすと、ラッカルの元へと歩み寄った。
「…分かっているな。さあ、ブツを見せてもらおうか…」
「…ああ、こっちへ来い。」
そう言ってラッカルはアヴァロンを誘い込んだ。そう、これは一種の奇襲作戦である。
「…今だ、ステラ!」
(何…?)
「炸裂狙撃!」
アヴァロンの注意が一瞬それたすきに、ステラは死角から脳天目掛けて着弾点で爆発する弾丸を撃ち込んだ。対応が遅れたアヴァロンはそのまま命中、頭は弾け飛んだ。
「…やったか!?」
私たちはぐちゃぐちゃになったアヴァロンの頭部を見て価値を確信した。しかしどこかで誰かが死亡フラグを立ててしまった。「やったか!?」などとは思っていても決して言ってはいけないセリフである。この世界で珍しく太古から受け継がれている常識である。
「…ふふふ…愚かだなぁ、そんなもので俺を殺せるとでも思っていたのか。大人しく従っていればよかったものを…これで余計な死者が出ることになったのだぞ。」
「…そんな…馬鹿な、あり得ない…」
アヴァロンの頭部は見る見るうちに再生されていっている。ここまでくるともはや人間であることを疑ってしまう。
「おいコノマ組、再生能力があるなんて聞いてないぞ。」
「俺たちも知らなかったんだ。実際に攻撃を与えられたのは今のが初めてなんだからな。」
「…まぁいい。それはそうとしてナミカ、大した気配を放っていなかったから選択肢から消していたが、この状況はそういうことでいいよな。」
「…うん、彗星の使徒だ。間違いない。」
不思議な奴だ。皇珠や『私』のような強い気配は感じないのにも関わらず、明らかに彗星の使徒の力を使っている。見たところ、皇珠や『私』のような攻撃よりの力ではなく生存能力に特化した力を持っているのだろう。
(強い気配を感じないのはそうだからなんだろうな。だとしても十分すぎるくらい強いんだけど…)
「…ん?出発した時よりも人数が増えている。…なるほど、援軍を呼んだのか。だがそれがどうした。雑魚が何人増えたところで一緒だ。さぁ、戦争を始めようじゃないか。その度胸に免じて、全力で相手をしてやる。」
(まずい…このままじゃここにいる人たち全員の命が危ない…ねぇ、『私』、なんとかしてよ、みんな死んじゃうよ?)
私はダメもとで『私』に支援を頼んでみた。
(だめ。この男に世界の均衡を崩すほどの危険性はない。だから私は動けない。)
(そんな…みんなが死んじゃってもいいの?)
(だめに決まってる!…でも、私は使命に囚われてるから…)
(…こんなこと自分にしか言えないから言うけど、天虎が発足したときすぐに排除できなかった奴が、今更使命がどうこうとか言ってんじゃないよ!)
(!…それは…私この間説明したよね、足りてなかったかな。)
(足りるわけないでしょ、あなた、あいつのせいでとか、騙されたんだとかしか言ってないじゃない!)
(…うう…とっ、とにかく!私はそう簡単には動けないの!もう話しかけないで!)
(ちょ、ちょっと!…はぁ、何も言わなくなっちゃった…)
やはり彼女にもそれなりに制約はあるらしい。
「しょうがない、やるか!」
私は
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