【50】朝チュンではすまなかった朝



※49話のあとの50話の始まりからです。


タイトルのみ変更、加筆なしです、読み直しの方は飛ばして大丈夫かと思います。(ただし、削った部分があります。今回の加筆の後半、父親に関する加筆があるために、その部分を削りました) 50読まれた方は読み飛ばしで大丈夫だと思います。

―――――――――――以下本文―――――――――――――――


 翌日、アベル様の腕の中で目が覚めた。

 まだ眠っているアベル様の閉じられた瞳を彩るまつ毛に見惚れる。


 じーっと見てしまっていたら、彼の目が開いた。


「おはよう……」


 額にキスされたのでキスで返す。


「お、おはようございます」


 ギクシャクしてしまう。


 しかし、すごく体がだるい……。

 また、うと……としたら、頬を撫でられた。


「朝の食事は部屋に運ぶように言ってありますので、ゆっくりしましょう」


 ……。


「……それはつまり、昨晩はつい……とか言ってたくせに、計画的実行だったんじゃないですか!?」

「……あはは、いえ、そんな事ないですよ」


 あやしい……けど、まあいいか。


「――ところで、朝風呂一緒に入ります?」

「いっ、いえっ!! 1人で入りたいです!」


 さすがに明るい所は抵抗ありますよ!

 ……とはいえ、アベル様は暗闇でもよく見えてらっしゃるわけではありますが。


 かんがえたくない。


 ……そして……立ち上がろうとして……なんと、立てなかった。


「プルプルしてますよ……生まれたての子鹿?」

「見ないでもらえますか! というか、誰のせいだと」

「じゃあ、責任持って、今朝はオレが侍女役になりましょう?」

「いやああああ!?」


 アベル様に風呂に入れられた!

 ナニー呼べばよかった!!


 ……全てを知り、知られてしまった朝だった(合掌)。



 *****



「今日は一日、部屋でゆっくりしていてください」

 

「いや、そういうわけにも」

「……ソファーで脱力して起きられない人が何を言ってるんですか?」

「笑わないでください……」


 アベル様は微笑んで私の髪を撫でたあと、執務室に向かわれた。

 私はサメっちを起こして、自室のベッドに私を運ばせた。


 突っ伏す。私は死体。


「リコ、だいじょうぶー?」


 小さい状態のサメっちが頭にポフッと乗ってきた。


「うるさい、私を1人にした裏切りもの……」

「1人にしないといけない時もあるのさ~。僕は空気の読める人形でありたいぉ」


 まあ、たしかにサメっちやら他の人形たちがいたら、良い雰囲気にはなりえない。


「リコ、でも良かったね」

「ん?」

「愛してくれる人に出会えた」

「……うん」

「でも、僕たち人形も、君をとても愛してるよ」


 サメっちが頬ずりしてきた。


「王宮にいる頃、僕を作ってくれてありがとう、僕は君に出会えて幸せだ。他の人形たちもそうだ。ほんと、ここに来る前は、君がいつも辛そうだったから、皆で心配してたんだよ」


「うん、知ってる……でもありがとう」


「僕たちは一体一体、君に作られた子も、購入されて来た子も、拾われた子も、皆君が大好きで守りたいと思っている。僕たちは、死ぬその瞬間までずっと君と一緒だ。だからこれからも、辛いことがあったら、僕たちに相談するんだよ」


「サメっち……」


 私は、手のひらにのせて、サメっちに頬ずりした。


「さっき、裏切り者とか言ってごめんね」

「いいんだょ~。僕を必要としてくれてたんだよね、ありがとう」


「リコ、だいすき」


 そう言って、サメっちは目を細めた。



 *********



 昼前に、リリィがニヤニヤしながらやってきて、聖属性魔法で私を回復した。

 この小悪魔め!


 しかし、そのおかげで今日はできそうになかった、セバスとの授業ができるようになった。……のだが。



「え!? お母様とお兄様が?」


 自分に用意された執務室で、そのセバスと業務の引き継ぎをしようと待っていたら、セバスが厳しい顔をしてやって来た。

 その厳しい顔で何を言い出すかと思ったら。


「ええ。先程、王都から情報が入ったのですが。そのお二人が……幽閉されたそうです。これは間者が仕入れてきた情報なので、世間には知られてないのですが」


「どうして……」


「実は最近、陛下が妾を囲われて、その妾が妊娠したらしく……第2王妃に、という話が持ち上がり……」


「うわ」


 その先、聞かなくてもわかる気がする!


「……その、陛下の御子を狙い、妾が飲むお茶に薬を入れて……殺害しようとしたらしく。ひょっとしたら後々、幽閉というだけでは終わらないかもしれません。恐らくですが、そのうち病で二人共……という扱いになりそうです」


「いや、でもなんでお兄様まで!?」


「……それが前辺境伯の息子だ…、という事は、デイジー殿下と御本人だけがご存知だったらしいのですが。それが原因となって皇太子殿下は皇太子殿下で自分の地位を守るために御子を暗殺しようとしたらしく……しかしながら、暗殺は失敗したうえに、その秘密までバレたらしく……」


 泥沼じゃん!?

 セバスが眉間を揉んだ。


「わ~。やっぱりお兄様って前辺境伯様とのお子様だったんだ……」

「奥様、知っていらっしゃったのですか?」

「だって、お顔がそっくりだったんだもの」

「……そうだったのですね」


 お母様がこれで結婚式にくる不安もなくなった……。

 私の結婚に、障害が何一つなくなった……。



「しかし、奥様が王宮に呼び戻されないかと、私は心配しました」

「え?」


「あなたは、そのスキルの強さといい、陛下の面影もある。確実に王家の血筋でしょう。ですから、結婚していなければ、今頃は王位継承権1位ではないですか?」


「……あ、ほんとだ」


「まあでも、陛下が新しい王妃を迎えられるので、その心配もなさそうです。お腹の御子もご無事のようですし……奥様、これからも辺境伯夫人としてよろしくお願いします。あと、私をそろそろ、『セバスさん』ではなく呼び捨てにしてください」


 そうして深々とお辞儀された。

 セバスは相変わらず無表情で厳しい顔だが、最近は瞳が優しい気がする。

 最初は怖かったけど、もう平気になった。


「あ……そうですね。じゃあ、セバス。引き継ぎをお願い」

「はい、ですがその前に。あとひとつ、奥様」


「……なぜ、デイジー王妃が死刑ではなく、隠されて幽閉、そして病扱いで陛下が処理なさろうとしているかわかりますか?」


「え?」


「……陛下は、仰っていたそうです。『アプリコットを罪人の子にするわけにはいかない』と。大臣達が公開処刑にすべきだと訴えるなか、そう言って押し通されたらしいですよ」


「…………」


「王妃のせいで頭がおかしくなっていたとはいえ……陛下の御心には奥様への愛情が宿ってらっしゃったようですね」


「――っ……」


「こちらをお使いください」


 そう言ってセバスは私にハンカチを差し出した。



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