【48】リリィ、ちょ、おま
「奥様、この間、私がいつか恋バナしましょって言ってたの、覚えてますか?」
寝る前の身支度をリリィにやってもらっていた時、リリィがそんな話を始めた。
ちなみに、ここは本棟だ。
部屋をもらったことだし、さっそく今日泊まってみることにしたのだ。
「ああ、卵があった場所での話ね? 覚えてるわよ。ロニーの話、聞くよー」
「えへへ。それもありますけど。……奥様、私、実は出会った頃、心配してたのです。奥様が旦那様と別れちゃうんじゃないかって」
「え? ええ」
「私ね……この世界のこと、実はいっぱい知ってるんです」
ん?
「……といっても、そうなったのは、奥様があの教会に助けに来てくださった時に『思い出したから』なんですけど」
――お、思い出す……?
――まさか。
「奥様、あの時は助けに来てくださってありがとうございます。まさかモブの私がヒロインに助けに来てもらえるなんて、思いませんでした!」
ニコ、と笑ってリリィはそう言った。
モブ……ひ、ヒロイン!?
この子、まさか。
「リ、リリィ……?」
私はとまどった。だって。
「奥様、前世って信じます? あ、子供のたわごとだと思って聞いてください!」
リリィはいつものニコニコ笑顔で、そう言った。
******
リリィが言うには、この世界の現在は、とあるウェブ小説の世界――その続編の世界。
……続編。
物語の終わったあとの世界が続いてるんだと思ってたけど、続編が出ていたのね。
まさか、リリィが転生者だったとは……。
「奥様も転生者だったんですね!」
私は一瞬悩んだが、リリィには自分に前世の記憶があることを打ち明けることにした。
リリィはそれを喜んでくれた。
「けど、リリィ。あなたさっき、自分のことモブって言ってなかった?」
「そうですよ。聖女候補ではありますけど、ヒロインじゃないですよ。一作目で聖女がヒロインだったので、作者は次作で違うタイプのヒロインを持ってきたようです。それがあなたです、奥様」
「え、私がヒロインなの!?」
「そうですよー」
「え、でもお母様に全部してやられてきて生きてきたし、ヒロイン補正とか感じたこともないんだけど!」
「ああ、えーっとそれは多分、私の想像なんですけど。奥様がヒロインの座に就いたのは多分、旦那様にスキルバレした時ですね。小説のほうはそれがプロローグなんです。舞台は学園なので、全然内容違っちゃってるんですけど」
アベル様にスキルがバレ……あっ!
あの夜か!
サメっちとアベル様の様子を見に行って、アベル様に見つかった夜!
さらに、リリィの覚醒がその少し前だ。
どっちもあの神託がかぶる時期だ。
そういえばあの時から、ここでの生活が良い方に変化していったし、アベル様の助けも得られて孤児院経営やその他のやりたいことが上手く回ってた。
「奥様って前のヒロインのお母様にかなり虐げられてますよね」
「え、まあ」
「さっきも言いましたけど、奥様は学園には通ってないでしょう?」
「え? うん。ずっと王宮で勉強させられてたよ」
「小説なら、学園でアベル様と恋愛する予定だったんですよ! アベル様に内緒にしてる人形スキルを使ってるとこを見られるってとこが物語の冒頭です……でも結局アベル様とご結婚されることになったので、やはり運命ですねぇ。うふふー」
恥ずかしいな!
「そ、そうなんだ……」
私は10歳の少女相手に照れて俯いた。
「前ヒロインは本当に酷いです! 王妃様も絶対転生者ですよね、それ。つぎのヒロインを虐げて、おまけに聞いてたらハーレム作ってるんですって? この世界は小説であって乙女ゲームじゃないのに。だから色々と続編が狂ってるんですね。まあ人生好きに生きたらいいとは思いますけど、やりすぎです!!」
……リリィ、中身は絶対10歳じゃないでしょう、あなた……。
「ね、奥様。だからもうね、奥様が今、ヒロインなんですよ。神託にもヒロインが世代交代したとあるなら――ヒロイン補正があるとしたら、それはあなたにありますよ! だからきっと王妃様のことは気にしなくて大丈夫ですよ! 何かあっても勝てます!! 私、それをあなたに伝えたくて、思い切ってこの話をしたんです!」
「リリィ……」
なんて良い子なんだろう。
私を応援したくて、話しづらいことを話してくれたんだ。
「そういえば、リリィは自分がヒロインになりたかった、とか思わなかった?」
「えっと、興味ないですね。それにロニーが大好きなのでこのままロニーと一緒に生きていきたいのです! 私、前世は思い出しましたけど、人格はこの世界のリリィが基盤ですから!」
えへへ、と笑う。
そっか……と私も和んで微笑んだ。
この子は前世にひっぱられないで新しい生を楽しんでいるんだな。
しかし、その次の瞬間リリィが爆弾発言した。
「――だから、安心して旦那様に身を委ねてください!」
「はい? ……はっ! そういえば、この夜着、妙に……」
「リリィ、頑張って可愛らしいの選びました!(目キラキラ)」
「いや、今日は普通に、試しに、泊まりに来ただけだよ! ていうか、これ可愛いとは違うよね!? 私も今更気がついたけど、薄くてちょっときわどいよね!? 他の夜着持ってきて!?」
「断る。リリィ、旦那様にも感謝しておりますので、奥様をプレゼントフォーユーしたいのです。というか使用人一同そう思って動いておりました。奥様が今日泊まるって言った時から……ふふ!」
今、この使用人、主人に対して『断る』っつったよ!?
しかも主人を勝手にプレゼント扱いしてるよ!
「なん… …だ、と……?」
そして、まさかの使用人全員からの包囲網が!?
ちょっと泊まってみるって言っただけなのに!?
「それじゃ、これで私は失礼しますね。あ、そういえば先程、旦那様はお風呂に行かれてましたので、そろそろお部屋にお戻りかと~!」
「ちょ、おま、待っ」
「ではでは~、おやすみなさ……休めないかもしれませんが、おやすみなさいませ~」
「uLILIYYYYYYYYYYYY!!!!!」
バターン……。
リリィが出て行って、部屋の中がシーンとした。
今夜はリリィの転生者が発覚したから、それについて考えながら寝ようと思っていたのに、それどころではなくなった。
リリィがとんでもない
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