【3】 別棟へ



「こちらです」


 目つきの冷たい茶髪の侍女が、私を別棟に案内する。


 別棟と呼ばれたその場所は、本棟から結構歩いた。

 敷地、結構広いなぁ。


 そんな感想を抱きながら、本棟から少し歩くと森になっており、その森の小道を抜けると、ほどほど手入れされた庭園と、その奥に少し古い屋敷が見えた。


 元・王国の姫が棲まうには不十分ではあるけれど――私個人としてはそこは魅力的に見えた。


 部屋に通されると、私が嫁入りする姫として、『ある程度』持たされた荷物類が、もう整理整頓されている。

 ある程度、というのは必要最低限とも言う。

 嫁入り道具としてふさわしい物など揃えてもらってはおらず、私個人が所有していた荷物を持ってきただけっていう。



 侍女は、名乗りもせず、不満を隠さない態度で私に言った。


「それでは、下がらせて頂きます」


 今後の予定を何も言わずに侍女は出ていった。


 更に、なんと。

 彼女が本棟へ帰って行くのが、バルコニーから見えた。

 私付きの侍女ではなかったの?


 つまり、私はこの広い屋敷に一人きりとなった。


「……」



「……ふ」

 私の目に涙がにじんだ。



「ふ、ふぅ…っ……」


 ポロポロと私の目から涙がこぼれ落ちる。先程から震えていた肩がさらにガクガクと揺れる。



「ファアああああああいいいいいいいいいっぅうううう!!!!」

「うぇえええええええいいいい!!!」

「ひゃっはーーーーーーーーーーーーーーあああああ!!」

「I am winnerぁあああああ !!!!!」

 

 私は部屋を思いっきり転がりまくった。


 ――そして号泣し、結構なブリッジ状態でガッツポーズした。



「やったぜええええええええええええええ!!!」


 待っていたんだッ!!! この時を!!


 はっはっは!


 実は私は前世を覚えている!!


 前世は高校生だったんだよね。


 活字の虫で自業自得にも読み歩きして、交通事故った。


 で、その時に読んでた本が今いる世界だ。


 ちょうど読み終えてフゥ~と、溜息ついた所で前世終わった。だから。


 この世界――前世で読んでたウェブ小説の世界に生まれ変わった事はわかっていたぜ!!


 ただし、現時点でこの世界は『物語の続き』である。


 つまり物語の終わった後の世界で、先を知っていて無双できるわけでもなんでもないから、ジッと大人しく耐えていたんだぜ!!!


 いやあ、辛かった!!


 あの母親は主人公――ヒロインだ。

 小説ではあんなヤツじゃなかったわよ。どういうことよ。

 ぜったい魂が濁ってる。最悪だわよ。

 


 しかし、耐えたかいがあった!!

 あったわよ!!


 もう、空の上で世界中の人におめでとうって言われて拍手され、アリガトウって言いたい。


 前世でよくあるウェブ小説では確か、不遇な令嬢がボロ雑巾のように荷物一つ持たされないで追放同然に嫁がされるのを良く見てたから不安ではあったけれど!


 私は運良く自分の荷物を色々持ってこれたし、家(屋敷)も一軒手に入った!


 しかもねやらなくていい(造語)し、夫人の仕事もしなくていいって!


 うっわ、嬉しい……。

 これは今まで耐えてきたご褒美ですよね!?

 予算おこづかいももらえるし!!


 馬車でここへ来るまでに大きな街も見かけた!

 絶対遊びに行く!

 そして屋敷の周りの森も散策しよう!

 


 神様、あっりがとーう!! ヒュゥー!


 あとはもう、好きに寿命まで生きてやるわよ!!


 おめでとう! 私ッ!!


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