【11】 目がさめたら旦那様に看病されてた。
「――目が覚めましたか」
目を開けると、ベッドの横で簡易テーブルと椅子で仕事をしている旦那様が目に入った。
え。
なんだこの状況。
見ると、私の寝室だ。
窓の外には月。夜だ。
旦那様がため息をついて、テーブルに頬杖を突いた。
「……突然倒れられたので、びっくりしましたよ」
あ、そうか。
思い出した。
旦那様が監視……じゃなかった様子を見に来てくださった時に、見送ろうとして倒れたんだ!
「ご迷惑を……おかけしました」
「それは……構わないのですが」
構わない? 怒ってないのかな?
「医者に見せましたが、
ごふっ!!
「あ、あ、えーっと。読書のし過ぎかもしれません!」
「そうですか、ですが……それなら寝不足もあるかもしれませんが、どうしてそれで魔力がなくなるんですか」
「わかりません!! ひょっとしたら身体が弱いのかもしれませんんん!!」
そういうと旦那様は、あ……、という顔をして。
「身体が弱いということなら、やはり1人で別棟に住んで頂くのは……あ、やはり使用人が必要なのでは?」
しまった。
「いえ、結構です! 今後はこのような事がないように気を付けますので!!」
「……かたくなですね。では、次にこんな事があったら、使用人をいれます。あと、いつのまにか倒れてた……とかなってはいけませんので、今後は数日に一度、本棟で一緒に食事をしましょう。健康状態を確認させてください」
「ふぁい!?」
「……いやなら、こちらに使用人を住まわせますが」
「わ、わかりました。数日に一度、なら……」
なんて事だ。
だが、この別棟でフリーダムに過ごすには数日に一度の食事を受け入れるしかない。
まさかの生存確認食事会の発生だよ。
まあでも、旦那様もこの別棟でしばらく放置してた妻が干からびた死体になってた、とか困るものな……。
ん? あれ、そういえばいつの間にか夜着を着ている。
これまさか旦那様が着替えを……!?
私はちょっと頬が熱くなった。
「あ……そういえば、き、着替え……は」
「ああ、大丈夫ですよ。さすがに私が着替えさせるわけにはいかないので、侍女に頼みました」
旦那様はちょっと咳払いしてから答えた。
「は、はは。まあそうですよね……。…………!」
そう話して、目が泳いで――旦那様の簡易デスクの上に、サメっちがぬいぐるみ状態でいるのが見えた。
サメっちがダラダラと汗をかいてる……私にしか、わからないけど!
「? どうしました?」
「あ、いえ、その。ぬいぐるみ……」
「ああ、すいません。あなたが倒れて眠っている間に――この部屋ずいぶんとぬいぐるみや人形がおいてあるな、と見せて頂いてたのですが、その中にこの……魚? ですかね。ぬいぐるみを見つけて、ものすごく……気になってしまって。ついデスクの上に置いて、
「き、気になりました?」
「ええ、とても」
「か、可愛いでしょう?」
「…………………………。 ……ええ、まあ。ただ……この間、私の部屋に侵入してきた一味の海洋魔物と良くにているな……と」
旦那様、可愛いに対する無言が長いうえに
そしてサメっちから、さらに滝のような汗が!!!
「そ、そうなんですね。そんな偶然があるんですね」
「……そう、ですね」
旦那様は、サメっちから視線を外すと、今度は私のベッドのサイドテーブルに置いてあったリンゴに手を伸ばすと、一緒に置いてあった果物ナイフでスルスルとその皮を剥いた。
「うわ、旦那様。リンゴの皮をそんなに綺麗に早く……感動です!」
「……別に、普通です。はい、食べてください」
旦那様が小皿に切ったリンゴを並べて渡してくれた。
「ありがとうございます! 頂きます!」
そういえば、喉が渇いてた。
「さっきも言いましたが、まる一日以上も眠っていたので心配しましたよ。……水も飲んでください」
水まで用意してくれた。
「ほんと、すみません……、ありが……でも、使用人はどうされたのです? 旦那様がわざわざこんな事しなくても……」
「あなたが、うちの使用人を信用されていないので。そして私は一応、あなたの夫ですから……当然かと。安心してください。少なくとも私は、理不尽な危害をあなたに与えるつもりはありませんから」
無表情なまま、優しい言葉をかけられる。
不思議な感じはするけれど……丁寧な社交辞令だ。
嫌いではない、な。
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