【9】道を舗装しよう。
「どうしました?」
「ちょっと車輪がはまっちゃって……」
屋敷のリフォームが終わったあと、暇だった私は屋敷周辺を散策していた。
すると、街へ向かう街道で立ち往生している馬車を見つけた。
この道は以前、私が街へ行くのに使ったのとは別の道。
なんと渋滞が起こっている。
渋滞の原因になっている馬車をみると、車輪が整備不良によって出来ただろう溝にはまってしまっている。
よくある事故だなぁ、と眺めながら通り過ぎようとしたけれど、結構ガッチリはまっていて、馬車主が苦戦している。
テコでも動かないとはこの事か。
「お力になりたいですが……できることがありませんね。頑張ってくださいね」
「いえいえ、ありがとうございます」
私は、馬車主に声をかけて通り過ぎ――。
――しばらく歩くと近くの木陰に身を隠し、ホッカムリして、ぬいぐるみの仮面をつけた。
「ネロ起きて。それとサメっち、手伝って。あそこの馬車を助けたいの」
「……」
真っ黒なクマのぬいぐるみのネロが、無言で目覚め、巨大化する。
「いいぉ~」
サメっちが私のフードから出てきて巨大化し、人間の手足を生やす。
他にもぬいぐるみで、力が強い子たちを起こす。
「どうも~通りすがりのサーカスでーす!!」
「ま、魔物っ!?」
起こした人形たちを連れ、現場に戻っていると、渋滞を起こしている複数の馬車から悲鳴があがるが、サーカスです!! と豪語してごまかす。
「あ、サーカス? ほんとに? あ、でも良く見たらぬいぐるみっぽいですね」
「ほんとだ」
「いや、なんでぬいぐるみから成人男性の手足が!?」
旦那様にも言われたけど、そこ突っ込むところ?
「可愛いでしょう」
「可愛さの基準がおかしいですよ!!」
「ありがとう、可愛いですよね」
「言ってませんよ!?」
サメっちの可愛いさのお陰で、馬車の人達も
「おや~~御者さん、お困りのようですね~」
「……あなた、さっきのお嬢さんです?」
「なっ ち、ちがっ」
するどい!!
「え、でも服が」
良く覚えてるな!?
「サーカスです!! サーカスの団長です!! ああ! 車輪! 我がサーカスが力になりましょう!!」
「え」
御者さんが答える前に、サメっちとネロが二匹で、軽々と馬車を持ち上げて、くぼみから脱出させた。
「おお……ありがとうございます」
「ただの通りすがりの親切です!!」
「まあでも……お礼にこれどうぞ。うちで一番売れてるクッキーなんですが」
御者さんにお礼にクッキー缶を貰った。
御者さんは、郊外にある小さな町でクッキー作ってる店長さん本人だった。
しばらくすると、渋滞が解消されて、馬車の行列はなくなった。
しかし、道を見ると結構ガタガタしていて酷い。
これは、今までもこういう事あったな。
「……夜中に工事でもしよっか。暇だし」
「いいねぇ~」
「ネロ、とりあえず、そこのくぼみを踏み潰して平らにしておいて」
「……」
ネロは無言でドスンドスンした。
地響きしたけど、綺麗な平ら状態になった。ネロ、グッジョブ。
それから、また一ヶ月以上かけて、私は大量のぬいぐるみを投入してその街道を、素人仕事ではあるものの、安全に馬車が通れるように舗装していった。
人に見られないように夜中にやってるので、たまに魔物が出たりして危ないけど。
戦闘に長けてる人形たちもいるので、なんとかはなる。
でも、もう今週中には完成しそうだなあ。
終わって、また暇になったら、他の荒れてる道を探して舗装しようかな。
――それにしても。
先程述べた通り、夜中に工事してたから、朝から眠たくて、昼寝の時間が増えてしまった。
朝はちゃんと起きないと駄目だと思うし。
夜の作業は結構身体に響くなぁ。若いけど大丈夫ってわけでもなかった。
今日もこれからアフタヌーンティだが。それが終わったら、少し寝ようかな。
私は庭のテーブル席でうーんと、伸びをした。
ここの空気おいしい。
ちなみに、今日の茶菓子は以前、助けたお菓子屋さんのクッキーだ。
あの貰ったクッキーが美味しくて、リピーターになってしまった。
たまに街のお菓子屋さんに置いてもらってるそうなので、それを買いに行く習慣ができた。
「いただきまー」
私がミルクティを飲もうとしたその時、
「こんにちは。お久しぶりです。アプリコット姫」
背後から旦那さまの声がした。
「ブっ」
私はミルクティーを噴いた。
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