女体化したら振られた女の子との距離が近づいた件
ななみん。
第1話 なにこれ、俺?
「話ってなにかな?」
放課後、誰もいない教室に二人きり。俺は同じクラスであり、いつも目で追っている
窓の外から運動部の掛け声が聞こえる中、小首を傾げ桃色の髪を揺らす彼女に思わず息を呑む。
内面がどうとかなんてものはなく完全な一目惚れだ。いつ見ても人形のように整った目鼻立ちをしていて緊張してしまう。
無言の間が続いたあと、俺は心臓の高鳴りを抑えながらようやく口を開いた。
「石動さん、ずっと好きでした。俺と付き合ってください!」
「ええと、君の気持ちは嬉しいんだけど……本当にごめんね」
彼女は気まずそうに立ち去っていき、俺の生まれて初めての告白は失恋という形で終わった。
まあ、ほとんど話したこともないし予想はできていた。だめだったものは仕方がない。
そう開き直ろうとしていたのに、大好きなゲームも手につかず夜はすぐに眠れなかった。
「えー、次の問いを……美空。
翌日。気がつくと授業が始まっていて、数学教師の
葵というのはもちろん俺の名前であり、女みたいだといまだにからかわれることも少なくない。
もっともこれに関しては聞き流す以外の選択肢なんてないわけだが。
それは置いといて、さしあたっては今どの問いに当てられているのか把握しなければ面倒なことになりそうだ。
「葵くん、ここだよ。53ページ」
そう思っているとお馴染みのひそひそ声が聞こえ、顔を向ければ隣の席の女子生徒がテキストに指を差していた。
おまけに回答も記されている。あとは読み上げるだけですべてが丸く収まるようにお膳立てされているようだ。
「えっと、この問いの解は――」
こうして事なきを得た俺は再び眠りに落ちていった。
「また寝てるー。もしかして昨日も徹夜してないよね?」
それから意識が飛んでどのくらい経っただろう。
机を叩く音のあとに聞こえてきた声に顔をあげると、さっきの女子生徒――
赤みがかったロングヘアー。やや垂れ目で人の良さそうな雰囲気を放つ舞は、いわゆるラノベでよくある幼馴染なんてありがたい存在じゃない。
ただFPSゲーム好きという接点だけで繋がった、趣味における友人のようなものだ。
「お前にはわかるはずだ。ランクを上げ切るまでやめられるわけないだろ?」
「まあその気持ちだけはね。でもさすがに授業中寝るのはだめだよ? 他の先生からも目つけられてるみたいだし」
「わーったわーった。明日から頑張るわ」
「そう言ってまた寝るー」
「あと五分。五分だけ許してくれ母さん」
「ちょっと……誰がママよ」
くすくすと笑う舞から視線を外し、俺は再度惰眠を貪ろうとした。
「ところでみゆに告ったんだって?」
「なんだ……もう知ってるのか」
だるさの残る体を起こして舞を見る。
「そりゃ親友ですし? でもあの子誰からの告白も断ってるみたいだから、あんまり気を落とさないようにねー」
「もしかして励ましてくれてるのか? ただまあ、すぐに忘れるのはちょっと無理だな」
「じゃあほら、あの可愛い妹ちゃんに心を癒してもらえばいいんだよ!」
「それはさすがに兄としての威厳というものがあるわ」
「そんなの投げ捨てちゃった方が楽だって。あーあ、私にあんな妹がいたら全力で可愛がっちゃうよ。例えば毎日なでなでしてお小遣い五万あげちゃう」
また始まった。
こいつはとにかく可愛い女の子が大好きらしく、こんな風に妄想にふけってしまうのが日課となっているほどのどうしようもないやつだ。
いつものように話半分に聞き流し、授業を適当にやりすごすと昼の時間になっていた。
「おう葵、飯食おうぜ!」
元気いっぱいに声をあげて、空いていた前の席にどかっと座ってきたのは
大抵のアホなことは一緒にやってきたいわゆる親友、いや悪友だと言っていい。
「お前今日もパンと牛乳かよ。完全に栄養偏ってんぞ?」
「そこで、葵の弁当から少し拝借すればバランスは完璧となる!」
やつはから揚げをひょいっと口に放り込みご満悦だ。
「なんねえよボケ。って、てめぇ! よりによって一番でかいの取りやがって!」
「まあそういうなよ。しっかし葵は本当料理うまいよな。つくづく女じゃないのが残念でならん」
「いつまでも気味の悪いこと言ってんじゃねえよ」
俺が呆れるように吐き捨てると、清四郎はひそひそと小声で話し始めた。
「ま、冗談はさておき……あの件はどうなってる? ほら、あの、円城さんの」
「ああ、あれか? 舞は今のところ誰とも付き合う気はないってよ」
「そうか……」
清四郎はがっくりと肩を落としている。
こいつは舞のことが気になっているらしく、席が隣同士で最近よく話す俺に相談を持ちかけてきていたのだ。
はっきり本人に聞けばいいだろうに、変に踏み込めないらしくどこか憎めないところがある。
「まあそう気を落とすなよ。なにも舞だけが女子じゃない。むしろこのクラスには可愛い子なんて他にいくらでもいるだろ?」
「それは慰めてるつもりか? でも俺は円城さん以外には興味ない。絶対に諦めないぞ!」
「あーはいはい。ま、それだけ元気がありゃ大丈夫そうだな」
「ああ! 葵、これからも根回しよろしくな!」
「頼まれてもしねーよ!」
そんなこんなで下校時間となり、舞は陸上部、清四郎は柔道部の練習に向かっていく。
俺はといえば帰宅部を絶賛謳歌していて、いつものようにスーパーの買い物袋を両手にぶら下げ帰宅すると夕飯の下ごしらえを開始した。
「おにい、今日はなーにー?」
背後から声が聞こえてきて振り返ると、一つ下の妹である
金色の髪をツインテールにしていて背はかなり低い。
そのせいか子供っぽさは拭えないのだが、肉親という甘くなりがちなジャッジを差し引いても舞の評価するとおりの美少女だ。
「とっておきのやつだ。まあ楽しみにしてな」
「わっはーい!」
仕事の都合で両親が家に帰ってくるのは月に一度か二度。おまけに天音の
そんな消去法から始まった料理はいつからか、ゲームと同じでやればやるほど達成感に満たされる第二の趣味と言えるものになっていた。
「ふー、今日も美味しかったぁ」
天音は今日のメインであるビーフストロガノフを平らげたあと、満足そうに口元を拭いている。
「それはなによりだ。明日はなにが食べたい?」
「はいはい、なんでも!」
背筋を伸ばし天音は元気よく手をあげる。
「お前は作らないからわからないだろうけどさ、そういうのが一番困るんだよ。もし卵かけご飯だけが毎日出てきても文句言わないなら『なんでも』って言いなさい」
「じゃあラザニアとシーザーサラダ。デザートつきがいいっ」
「おいおい、最初から決め打ちしてたようなラインナップだな。ま、いいけどさ。デザートはお楽しみってことにしとくか」
「はい、シェフ!」
「お前本当調子いいよな。じゃ、明日まとめて洗うから皿出しといてくれ」
そして今日も一日が終わりベッドに飛び込んだ。彼女がいないこと以外順調な我が高校生活はこれからも穏やかに続いていくはずだ。
失恋のショックはどこへやら、気づけば眠りに落ちていた。
「んん、朝か……」
スマホのアラーム音とともに目覚め、ベッドの中であくびしながら伸びをする。
今日は土曜だし新しいレシピ本でも探しに行くか。その前に朝飯を用意しとかないとうるさいやつがいるな。
体を起こし立ち上がったところで違和感を覚えた。
視界の端には長い髪がふわふわ揺れている。どう考えても俺はここまで伸ばしていなかったはずだ。
おまけにいつもとは視点がかなり低く、まるで背が縮んでいるような感じがする。
考えていても埒が明かない。違和感の正体を突き止めるべく部屋の鏡を覗き込んだ。
「は? え、これ……なに、俺?」
鏡の中では黒い長髪の女が驚いた顔をしていて、かろうじて出てきた言葉は完全にうわずった女の声で再生されている。
なかなか整った顔をしているというか、どう見ても美形だ。そしてなにより胸の大きさに目を持っていかれる。
ふむ……。
これって俺なんだから触っても別に問題ないよな?
ああ、これはいわゆるセルフボディチェックだからな……。そのどこに問題などあろうものか! いや、ない。
一秒にも満たない自問自答を終え、ごくりと唾を飲み込み深く頷く。
「おにいー。朝ごはんまだぁ? ここにお腹を空かした元気な妹さんがいますよ」
ノックの音が聞こえた途端、我に返るのはお兄ちゃんの悲しき性だな。そうこうしているうちに部屋のドアが開いた。
「おはよう天音。これから支度するところだったんだ」
「え、なんでおにいの部屋に女の人が……」
天音は警戒するように身を屈め俺を見つめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます