左利きが上手くなる方法。

あめはしつつじ

左利きが上手くなる方法。

 左利きの練習を始めて、

 もう一週間がたった。

 つまらない算数の授業でも、

 ノートをとるのが楽しい。

 そーれーじゃーあー、

 この問題がっ、分っかる人ー、

 手っをあげてー、

 相変わらず面白くない先生。

 はいっ、

 と前の席の由美ちゃんが、

 まっすぐ、左手をあげる。

 はいじゃあ、田中さん、

 由美ちゃんは前に出て、

 左手でチョークを持ち、

 分数の割り算を解いていく。

 一緒に練習を始めたはずなのになー、

 と私は思った。

 ノートを見る。

 左手で書いた分数は、

 ちょっぴり不恰好。


 休み時間、

 匂い付き消しゴム付き鉛筆の

 消しゴムの方で、

 由美ちゃんの背中をつっつく。

 由美ちゃんなー、私と一緒に左利きの練習、

 始めたやんなー。

 そうやなー。

 どないして、そない上手なったん?

 ええ練習方法見つけたんよー。

 ほんまにー、教えてーなー。

 夜な、寝る前に、鏡の前で練習するねん。

 そんだけ?

 だけだけ、真奈ちゃん。


 夜、

 バレエを習う時に買ってもらった、

 姿見の前。

 ランドセルを机がわりに、

 宿題の漢字ドリル。

 私

 鏡を見ながら、

 私私

 私は私を書く。

 私私私

 右利きの私が、

 私私私私私

 左利きで私を、

 私私私私私私私

 鏡の中の私は、

 私私私私私私私

 右利きの私で、

 私私私私私私私私私

 鏡を見ている私は、

 私私私私私私私私私私私

 左利きの私で、

 私私私私私私私私私私私私私

 私は右利きだから、

 私私私私私私私私私私私私私私私

 右利きの私が私?

 あれ? 鏡の中、

 こんなに広く、私の部屋写ってたっけ?

 私は後ろを振り向く、

 私の目に私の部屋は写っていない。

 真っ暗で、

 何も、なくて、

 夜の底のような、

 冷たさを感じる。

 私は恐る恐る、鏡の方へ、向き直る。

 左利きの私が、

 振り向かずに、

 こちらを真っ直ぐと見つめていた。

 私は、右手で鉛筆を持っていた。




 なあ、真奈ちゃん、由美ちゃん、

 私も左利き上手くなりたいんけど。

 二人は答える。

 ええ練習方法があるんよ。

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