小説家を目指して
みなと劉
第1話
『モリアーティ教授と弟子』
『台詞多め』
『小説書いてください』
『表紙と挿絵も欲しいです』
「どんだけ欲張りだよ。…………うん、分かった。書いてみる」
こうして僕は、小説を書いてみることになったのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そして小説を書き始めてから十ヶ月が過ぎた頃。ついに最新作が完成した。いやはや長かった。
ここまでに何度心が折れてパソコンの前から逃げ出したことか。それでも僕は頑張ることができた。
そう、小説家になるという目標に向かって。
「と、いうわけで。これが僕のデビュー作だ」
僕はパソコンの画面をみんなに向けていた。最新作、『名探偵に転職した僕は、弟子と共に難事件に立ち向かう』のプロローグを。
「読モを辞めて小説家になったのか。まあ、お前らしくていいんじゃないか」
そう感想を漏らしたのは友人の一人である島田開人(しまだかいと)である。
彼は僕の小説を読んだ後、他人事のようにコーヒーをすすった。
「お前、小説家になって何かやりたいことがあったんじゃないのか? 探偵と小説家って真逆の存在だろ。両立できるのかよ」
そう。僕は作家になりたいがために、学校を辞めてバイトの量を増やした。
そして雑誌で見つけたモデルのオーディションに合格し、読者モデルになった。
そんな時に僕の前に現れたのが後輩である園山結(そのやまゆい)だった。
彼女は自分がオーディションに受からなかったため、僕に八つ当たりしてきたのだ。でも今は違う。
「結、今の僕にとって何よりも大切なのは小説なんだ。もちろんモデルの仕事も大切だと思ってるけど、僕には小説家になるという夢がある。だからごめん」
僕は彼女の目を見てそう言った。彼女は頬を赤らめて僕から目を逸らす。
「な、なんで謝るのよ……。別にそんなことで怒ったりしないわよ……」
どうやら僕が彼女に謝った理由を取り違えたらしい。まあいいか。とりあえず誤解を解くことはできたわけだしね。
そんなことを考えていると、島田が口を挟んできた。
「それで? 小説家デビューして何かやりたいことはできたのか?」
「ああ。僕にとって小説を書くことは生きることと同義だからね。これから一生ずっと書き続けたいと思っているよ」
小説を書き続ける人生、それが僕の目標だった。だから今の僕はとても充実している。毎日が楽しいのだ。バイトもモデルの仕事も充実しているし、何よりも小説を書けるということが嬉しいのである。
すると島田は少し考えるような素振りを見せてから僕に問いを投げかけてきた。
「その……もしかして、お前の小説って……その……エロいのか?」
島田は頰を赤らめながらそんなことを言ってきた。
「なんだい? 僕の書いた小説に興味を持ってくれたのかい?」
「そ、そうだよ! 興味とかないけど、どうしてもって言うなら読んでやってもいいぞ!」
そんなことを言って、彼は僕からパソコンを取り上げるとマウスを操作して文章を読み始めた。そして数分で読み終えると僕にパソコンを返しながら感想を述べた。
「ど、どうだった……?」
僕は恐る恐る問いかける。すると島田は顔を真っ赤にしながら感想をくれた。
「お前、これ絶対にR18だろ! 何が成人指定の小説を書くつもりはないだよ! めっちゃエロいじゃねーか!」
……まあそうなるよね。だって僕、成人してるし。でも仕方なかったのだ。僕が書いた小説には僕と結ちゃんが登場していて、しかも二人の恋愛模様が描かれているから。
そう弁明しようとしたのだが、島田はすでにパソコンを持って部屋を出て行ってしまった。どうやら僕に文句を言いに来ただけらしい。
「まったく、酷い友人を持ったものだよ」
僕はパソコンに小説を保存し終えると、再び画面と向き合った。そして小説を書く。今日も僕は物語を生み出すのだ。それは僕にとっての生き甲斐だから。
「『名探偵に転職した僕は、弟子と共に難事件に立ち向かう』か……。ふふっ、なんだか結ちゃんみたいじゃないか」
彼女はまだ高校生だが立派な小説家だ。
僕よりもずっと才能があるし、将来有望である。
僕が小説家になることを夢見てバイトの量を増やしてまで頑張ったように、彼女も小説家になるという夢を追い求めている。
「おっといけない。集中しないとな」
僕は意識をパソコンの画面に向けると物語を書き進めていく。そして再び数時間後。ようやく完成することができたのだった。
『名探偵に転職した僕は、弟子と共に難事件に立ち向かう』プロローグ 完結
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ついに完成した……。僕の処女作が……!」
僕は完成したばかりの原稿を握り締め、感動に打ち震えていた。そう。僕が書き続けてきた小説が完成したのだ。
ずっと憧れていた小説家になれたのだ。
これでもう何も思い残すことはない!
……いや、あるな。結ちゃんに読んでもらうという目的が果たせていないじゃないか! でもまだ彼女には見せていない。絶対に気持ち悪いと思われてしまうから。
でもいつかは……。
僕は原稿を鞄にしまうと、早速結ちゃんに電話を掛けた。今日はバイトが休みだから家にいるはずだし、原稿が完成したことを報告しないとね!
『もしもし? お兄ちゃん?』
数コールの呼び出し音の後、電話越しに結ちゃんの声が聞こえてきた。
「や、やあ結ちゃん。今ちょっといいかな?」
緊張しながら問いかけると彼女は不思議そうな声色で問い返してきた。
『別にいいけど……何かあったの?』
「い、いや。何でもないよ! それより本題に入るんだけど、実はね? 僕は今日、ついに小説を書き上げたんだ」
『本当!? おめでとー!』結ちゃんは電話越しに大はしゃぎしていた。可愛いなぁ。そう思いながらも僕は彼女に報告を続ける。
「それでさ、君には僕のデビュー作を読んでほしいと思って電話したんだけど……その、どうかな?」
『うん! 読んでみたい!』
そんな結ちゃんの元気な声を聞いて僕はホッと胸を撫で下ろした。
良かったぁ。
これで彼女から
「このエロ小説家!」とか罵られずに済むよ。
「ありがとう結ちゃん。それじゃあ明日、僕の家に来てくれないかい? そこで感想を聞かせてほしい」
『うん! あ、そうだ。実は私もお兄ちゃんに話したいことがあるんだけど……いい?』
「もちろんいいよ」
『じゃあ明日のお昼くらいにそっちにお邪魔するね!』
そう言って彼女は電話を切った。彼女の話っていったい何だろう? そんなことを考えていると腹の虫が情けない鳴き声を上げた。
「そういえば朝ご飯食べてなかったな……」
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