南淵付近で頻発する事故
「南淵をご存じですね。あそこ、今は心霊スポットになっているそうです」
逢がノートを開いて見せてきた。
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12月10日 午前10時過ぎ。
南淵付近を走行中の車が単独事故を起こした。運転手は「自転車に乗った子供が車道に飛び出してきたから驚いてハンドルを切った」と供述しているが、ドライブレコーダーにそれらしい映像は残っていなかった。
警察によると、南淵付近で単独事後が起きたのはこれが初めてじゃないらしい。以前にも何度か起こっており、一番古い事故は30年も前になる。事故を起こした運転手は必ず「子供が飛び出してきた」と話すとのこと。
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「この怪奇現象は、再現なんじゃないでしょうか」
四辻が口を開いた。
「30年ほど前に、あの淵の近くで実際に事故は起きていました」
彼は言葉を切り、俺に視線を向けた。その鋭さに寒気を感じる。
「その時亡くなったのは、あなたの双子の弟の、伸次君だったそうですね」
彼は全部知っているんだろう。あの時、あの場所で何があったのか。
しかし、彼はそれ以上事故に触れず、不思議な事を聞いてきた。
「事故の後、弟さんは見つかりましたか?」
「ああ、南淵に浮いていたのが見つかった。火葬されて、骨が墓に入れられたのも覚えてる。でも化けて出るって事は、恨みがあるって事だよな」
最後の一言は、自然と口をついて出てしまった。心のどこかで、断罪されることを望んでいるのだとようやく気付く。
「凄いな、骨まで再現するのか」
何か妙な事を呟いた四辻の頭を逢が叩いた。
取り繕うように咳払いをして、四辻は話を続けた。
「あの淵、立地的に南にあるので、地元の方は南淵と呼んでいるようですが、正式名称はご存じですか?」
「南淵の本当の名前? たしか——見繕い淵だったような」
「昔から、淵には妖しい伝説が付いて回ります。たとえば、牛鬼、河童、椀貸伝説などがありますが、見繕い淵も例外ではなく、風土誌に伝説が記載されていました」
四辻はタブレッドを差し出してきた。画面には、昔どこかで聞いた淵の昔話が表示されている。
「この話を始める前に、怪奇現象の裏には怪異という超自然的存在がいるということをご理解ください」
その後に続く言葉は信じ難いものだった。でも、どこか納得している自分がいた。あの朝、淵から引き上げられたのは、やっぱり俺の弟じゃなかったんだ、と。
※見繕い淵の伝説は第1話をご参照くださいませ。
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