家族が見たもの

 12月11日 昼

 スマホを見ると「早く帰ってきてね」と、妻からメッセージが届いていた。珍しいと思いながらほっこりしていると、新しいメッセージが届いた。


「変な鳥が飛んでるみたい」



 12月11日 夕方

 妻から電話があった。


 息子が倒れたらしい。

 呼びかけても反応が無く、救急車を呼んだら入院することになったそうだ。あまりにも突然の事だったので、病室に入るまで信じられなかった。何度も名前を呼んで体を揺すっても、息子と視線が合わない。


 嗚咽する妻からは詳しい話が聞けなかった。でもすぐに先生が来て詳細を説明してくれた。息子はベランダで倒れていたのを妻に発見されたらしい。検査を進めているが、今のところ原因ははっきりしないようだ。


 先生との話が終わる頃、妻はようやく落ち着きを取り戻した。励まそうと声をかけると、妻は——


「先生には言えなかったんだけど……」


 ——そう前置きして、息子が倒れる直前に起きた事を話し始めた。

 ベランダにカラスがとまったらしい。息子が追い払おうとして戸を開けると、カラスの顔が変に歪んだ。その顔は、まるで人間の子供の顔に見えたそうだ。

 その直後、息子は「出てけ!」と叫びながら床に座りこんで、そのまま意識を失ってしまったらしい。



 話を聞きながら、あの着信を思い出していた。電話の主は、たぶんあいつだ。あいつが探していたのは、俺じゃなかったのか?


 俺の所為で、息子はこんな目に遭ってしまったんだろうか……。


 息子の手を握る。


 すると、息子はとても病人とは思えない強い力で握り返してきた。

 さっきまではどこを見ているのか分からなかった息子が、俺を見て笑っている。でもその顔は息子じゃなくて、あの頃の俺とそっくりだった。


 息子の中に、あいつがいる。


 震える俺を見て、息子は口を開いた。


「伸一見ぃつけた」

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