機械少女と没落貴族〜無能力者の下剋上〜
おもち丸
第1話
ベルティア王国の西部に屋敷を構える上級貴族、グリフォン家。その当主であるフリードは18歳にして父を失い、帝国史上最年少の当主となった。
それから3年後、フリードは突然1人の少女を使用人として雇い始める。
少女の名はエマ・クライン。彼女との出会いは、フリードの人生を大きく変える事となる。
「一応聞いておきますが、本当にあの様な子供で大丈夫なのですか?」
フリードの側近のフラムは言った。
「大丈夫だろう。魔導士の実力は年齢や性別で決まる物ではない。それにあの娘の祖父は王国でも随一の強化魔法の使い手だ。父上も昔世話になったと言っていた。」
「孫もそうなら良いんですが......」
フラムがそう言った瞬間、箒に乗った少女が窓を突き破りながら部屋に入ってきた。
「うわぁ誰!?どういう事!?」
「落ち着けフラム、窓くらいまた修理すれば良いじゃないか」
「なんでそんなに冷静なんですか!!!」
そんなやり取りをしている間に少女は起き上がる。
「痛っ......あぁ、申し訳ございません。使用人として雇って頂いたエマ・クラインと申します。窓はどうにかして弁償致しますので」
エマはブロンドの髪を軽く1つ結びにしていて、所々汚れた服を着ていた。しかし窓ガラスにぶつかった割には、傷は全く無い。
「窓の事は気にするな。しかし怪我が無いという事は、やはりお前も強化魔法を使えるのか」
「いえ、魔法は使えません。」
「......何?」
フリードは眉を
「呪いと言った方が良いでしょうか。私は生まれた時から魔力が不安定なんです。普段なら魔法を使う前に魔力のブレを感じられるんですが、さっきは突然制御ができなくなって......見てください。」
エマは袖を捲って左腕を見せた。切り傷があったであろう箇所が完全に塞がっているのが分かる。
「こんな風に、多少の怪我は勝手に魔力を消費して修復してしまうんです。もちろん治癒速度を無理矢理底上げしているだけなので、意識を失うこともありますが。」
フリードがエマの傷を確認していると、服の二の腕の辺りが破れているのが見えた。二の腕にはまだ赤い切り傷が残っている。
「この傷......おい、ここに来る前に誰かに撃たれたりしなかったか?」
「あ、はい!ここに来る途中に矢が飛んできたことがありました!
「これはただの傷じゃない。刻印だ。何故かは知らないが、お前を追っている奴がいる。」
フリードはそう言うと窓に顔を近づけた。先程までの飄々とした雰囲気は消え失せ、21歳とは思えない重々しさをを感じさせている。
「フラム、この娘を頼む。面倒な奴らが来た。」
フリードは壁に立て掛けてあった杖を手に取り、部屋を出ようとした。
「また王家の伝令ですか?それとも騎士団のごろつき?」
「両方だ。」
その瞬間、割れた窓の奥から矢が飛んできた。矢はエマの顔のすぐ側を通り過ぎる。
「また!?しつこいなぁもう!!ちょっとぶっ飛ばしてきます!!」
「やめろ!!」
窓から外に飛び降りようとするエマの肩をフリードが掴む。
「お前がどれだけ頑丈なのか知らないが、あいつらはお前が倒せる相手じゃない。」
「よく分かってるじゃねえか元当主様よぉ!!」
窓の外から声が聞こえた。そしてその声はどんどん近づいてくる。
「本日をもってグリフォン家は貴族としての地位を剥奪され、アルベス領領主としての権限は全てこのウィンストン・リーヴスに譲渡される......陛下直々の命令だぜ?」
レッドブラウンの髪をガチガチに固めたその男は、魔法で起こしたであろう上昇気流に乗って部屋に入ってきた。
「リーヴス家の長男か。お前も王家の犬が様になってきたな。」
「あぁ?それはお前も同類だろ」
ウィンストンは舌打ちしながら答える。
「......まあ俺も貴族同士で殺し合うような野蛮な事はしたくない。そこの女を引き渡してくれさえすれば大人しく帰ってやるよ。」
「こいつを?どういうつもりだ?」
「そいつには国家反逆罪で逮捕状が出てる。禁じられている古代魔導具を所持しているとの事だ。そんな罪人を名門グリフォン家が匿ってたんだからなぁ。ここの民もさぞ失望することだろうよ。」
ウィンストンはそう言ってエマに近づく。
「さっ、という事で一緒に来てもらおうか。抵抗すると罪が重く......ぐはっ!!!!」
エマの腕を掴もうとしたその時、ウィンストンの腹部に鋭い左ストレートが入る。その場に倒れたウィンストンの胸ぐらを掴みながら、エマは言った。
「やっと言ってくれた!!古代魔導具の所持!!それが私が追われる理由!!」
「なんか人格変わってません?」
フラムは剣を鞘に納めて言った。
「私はずっと知りたかったんだ。なぜ自分が追われるのか、なぜ魔力が時々暴走するのか。その答えが今分かった。」
「アンタたちが探してる古代魔導具の1つ......それが私なんだろ?」
「ガキが!!!ここで殺してやる!!!」
ウィンストンは腕を振りほどくと杖を構え、矢筒に入っている数十本の矢を全てエマに飛ばした。
「うっ......!」
エマは腕で顔を守ったが、放たれた矢の多くは彼女の胸に刺さっている。だが、彼女は倒れなかった。
「馬鹿な!!竜さえ倒す毒矢だぞ!!何発も喰らっていながら無事な訳がない!!」
「あいにく効く身体が無いもんでね」
エマは手に刺さった矢を引き抜くと、ウィンストンの顔面を殴って窓の外に放り投げた。
フリードは呆然とその光景を眺めていた。
無数の穴が開いたエマの服の奥には、銀色の金属で出来た体が見える。
「お前......何者なんだ?」
フリードは杖を放り投げ、エマを見つめる。
「人形ですよ。少し大きいだけの。」
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