お祝いしましょ
「撃つの飽きた~」
「モモちゃん、今日一日で終わりだから頑張って」
さすがに元日から十日まで、撃つだけのお仕事をしていると飽きる。
この件では、モモちゃんの味方だ。宥めるしーちゃんは今日から出勤とあって、早くもいろいろ溜め込んでるみたい。撃ちながら、時々個人名が漏れてるよ……。
ローテーションを提案してみたけど、場所移動の間に手薄になるとマズいからと、却下された。
形勢は、はっきりこちら優勢らしいのだけど、ゲート内で迎撃射撃をしているだけの私たちには、良く解らない。リアルタイムで夜の九時。あと三時間で決定的な状況になるのかな? なって欲しいぞ……。
なんて愚痴っていたら、北極ゲートの【倶楽部エクシード】のリーダー小平次さんから、朗報がエリアチャットで届けられた。
「こちら【エクシード】。北極ゲートより侵入していた賊軍全撃破! 【金獅子】そっちはどうなってる?」
「こっちは完全にシャットアウトしてるよ。内部侵入部隊も、もうちょいで中枢部に辿り着く。……ここからは派手にやるか?」
「だな。……全軍ゲートから出て、憂さ晴らししてくれ! 長らくご苦労!」
心からの大歓声が上がる。
やっと、この単調なシューティングゲームから開放されるよ! 真っ先に飛び出したチョコレート色の機体は、もちろんカヌレちゃんだ。
私もロングレンジのレールガンをアイテム欄にしまって、ノーマルなのに持ち替える。
敵さんの盾は、レールガンで砕けるんだよね。盾に関しては、苦労させられた分だけロブスラーくんの殻の方が優秀。
「みんな、慣れてない分、一対一は危険だから、フォーメーションを組んでね」
「「「「はーい」」」」
都庁のお姉さんは、今日もJCチームの添乗員さん状態だ。
おおっ! 久々の宇宙空間……。お星さま、綺麗。
「ショウ、私は撃ちまくるから、シールド操作よろしく~」
『ミナにしちゃあ、良く辛抱したからな。気の済むまで撃ちまくれ』
「らじゃあ!」
全天球スクリーンは、敵を示す光点でいっぱいだ。
突然、帝国側が全軍反撃に転じたので動揺してるのが見え見え。動いてないと、当たっちゃうよ? ほら、撃ったら当たった。
ガィン! と凄い音がしたと思ったら、シールドがレールガンを弾いた。ショウ、良い仕事をしてる。
『お前、二つのことを同時にできないもんな……』
「解ってることは、言わないの!」
後ろにしーちゃん&JCズがいるので、わざと近距離から盾狙いで、レールガンを撃つ。盾を砕いちゃえば、ビームが通用するから、あの娘達の天下だ。
「ミナさん、面白いことやってるね」
「その策、乗った!」
エトピリカさん、エグザムさんも協力して、盾砕きに走る。チームJCが撃ち漏らしても、的確なエルモさんや、とにかく元気なひまりさんも控えてるんだよ。盾を壊しちゃえば、こっちの攻め手が増えるというものです。
「どいて、どいて、どいてーっ」
……何か通り過ぎていった。何だ、カヌレちゃんか。
シールドを持たずに、槍を両手に持って、駆けずり回ってる……。暴走状態で、ちょっと危ない。味方を殺っちゃ駄目だよ?
溜まり溜まった鬱憤をぶつけて、勢いは完全に帝国だ。
諸国連合側のリムが敗走を始めた時、コントロール基地の小惑星から、盛大な花火が上がった。
「誇り高き帝国貴族諸君、無駄な追撃はやめよ!」
スクリーンに金髪碧眼のイケメンさんが映り、呼びかける。
そして、勝利宣言だ。
『第一次ホリデー岩礁会戦』は、帝国軍の勝利に終わった。
カヌレちゃんがこちらに戻ってきて、倶楽部の紋章のビームフラッグを掲げる。各クラブがフラッグを目印に集結し、整列、凱旋するんだよ。
「これでもう、穴から撃つお仕事から開放される~」
「モモさんは、まだ良いですよ。私たちなんかビームだから、撃ってもほとんど効かないから、ガッカリですよ」
「イベントが終わったら、みんなも領地を大きくしてお金を稼ごうね」
「駆け足で追いついたから、まだ全然楽しんでないもん」
「そうそう、いろいろ楽しいことありそうなのに」
イベント内容には、言いたいことが有るけど、勝ったから良し。
来年は、単調にならないようにして欲しい。
小惑星帯を離れると、
亜空間飛行に入って、懐かしの帝国首都星系に帰ってきた。
総司令官のシェフィールド伯爵が、処理を報告して指揮杖を返却する。
この功を以て、シェフィールド伯爵は辺境伯へと
「辺境伯って、辺境に追いやられちゃうの?」
「昇進するんだから、追いやられないよ~。帝国の中で、領地を小さな国として裁量する権限を与えられたってこと~。ほぼ侯爵と並べる立場だよ~」
「すごーい。あんな若くてイケメンなのに!」
だよね、JCたち。
第一皇子と第二皇子の争いの中に、特大サイズの火種が放り込まれた感じだよ。紳士録を読み込んでいるモモちゃんが「初耳~」と言っていた人だけに、どういう出自なのやら。
本当に簒奪者なのかな?
ストーリーへの伏線だけが、散りばめられていくよ。
次のストーリーへのキーを早く見つけなくちゃ。気になってしょうがない。映画や小説と違って、MMORPGだと当事者になっちゃうものね。
的確な立ち回りは、大切。
お近づきになるべきか、否か。ちょっと情報を集めなくちゃいけない。
でも、そんなことは明日以降だ。
一旦、倶楽部ハウスに戻る。集計は始まったばかりで、発表は三日後だ。
今日はもう、おしまい。
十一時を過ぎたから、JCたちはログアウト。
大人組は、なんとなく去り難くて、円卓でお茶してる。
きつく申し渡されていたけど、もうこの時間なら伝えちゃって良いはず。
二十三時以降にすること! って朝吹さんも言っていたから、もう怒られない。よね?
「しーちゃん、しーちゃん」
「はい?」
「おめでとう!」
「え……何か集計が出ました?」
あはは、まだ意識はイベントの方に行ってる。
そっちじゃなくて、今日は一月十日。正式発表は十一日の午前零時だよね?
今の時点で、既に確定してるんだよ?
落選しちゃったら、個人的裁量で『特別賞』でも出すつもりだったけど、そんな心配は不要だった。私が口を挟むまでもなく、八割方の指示を集めてしーちゃんの絵に決まった。
イベント以上の圧勝だった。
むしろ、私がしーちゃんを個人的に知ってると聞いて、みんな驚いたくらいだ。
「一月十一日、午前零時は何の時間? そして、リアルの私のお仕事は何でしょう?」
ポカンとしていたしーちゃんの顔が、ぎこちなく笑みを作る。
大きな瞳が見開かれて、涙がこぼれ落ちた。
「本当に……ミナさんが言ってくれたわけじゃなく?」
「私が何か言うとそれで決まっちゃうから、最後に揉めるまでは発言権がないんだよ、酷いよね。……私が出るまでもなく、八割方の票を集めて圧勝だよ。もうちょっとしたら、正式発表。そこに事務所のメンバーの投票結果も出るから」
「しーちゃん、やったね。おめでと~」
あ、モモちゃん良いな。しーちゃんに抱きつくの、私もやりたい。
人を駄目にするクッション並みに、抱き心地良さそう。
……それはともかく。
「週末の土曜日はお休み? 契約やら何やらあるから、その日の十時頃に事務所に来てもらえると嬉しいです。あとで正式なメールも届くはずだけど、筆記用具と実印は必要」
「ほ、他に何か……必要になりそうなものはあります?」
「水着の写真とか有るなら持ってきて。……私が個人的に見てみたい」
「職権乱用だ~!」
冗談よ、冗談。
今年は一月からお仕事しなくちゃいけないんだから、そのくらいの我が儘は通してよ。
ゲーム内でリアルの話は厳禁だけど、お祝い事なら良いよね?
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