彗星宙域の襲撃

「君が~気に入った~なら このふ~ね~に~乗れ~」


 なぜか大合唱である。

 いろいろ溜まった鬱憤を吐き出す為か、はたまた修学旅行気分を引き摺ってるのか。

 倶楽部チャットで、突然始まったアニソン合唱会は大盛り上がりだ。

 レスリング一筋だったろうマサくんは、ついていけずに手拍子状態。沈黙を続けるD51さんは、多分『リラサガ・ヘッドライン』の記事を書いてる。

 さっきサイトを覗いたら、『【美食倶楽部】の女子が四人に増えてる!』というコメントが凄かったなぁ……。独占禁止法に引っかかる勢い。しっとりと色っぽい、美人なしーちゃんを直視したら、きっと大騒ぎになる。ちょっと楽しみ。

 そのしーちゃんは、といえば……


「よし、モモちゃん『Skies of Love 』いっちゃえ!」


 なんて、率先して盛り上げてる。

 てか、モモンガさんもあれを、小柄な体に似合わぬ抜群の声量で歌い上げてるし!

 たしかに最高のシチュエーションだけど、エンディングならともかく、こっちを歌い上げる人を初めて見たよ。歌詞、日本語じゃないし。


 窓の外は星の海。

 スキーバスのような外観はともかく、大型輸送艦を守るように艦隊行動を取る、総勢八艦隊の大航海だ。

 もう、銀河の歴史のページを捲っちゃう勢い。

 ただね……。この大型輸送艦が曲者。

 艦が大きい分、搭載エンジン数が多いのはわかる。

 だもんだから、エンジンを『冷やす』ために亜空間飛行の距離を短めに、回数を増やさなきゃならなくなってるの。

 もちろん『冷やす』は比喩であって、氷とかで冷却するわけじゃないよ。亜空間飛行で蓄積する……えっと……何とか粒子を宇宙に放出する必要があるの。それに必要な時間を、『エンジンを冷やす』って言い方してるんだ。……ちょっと玄人っぽくて、良い。

 ただ、そのタイミングを全て輸送艦で決められてしまう事で、何か意図的なものを感じてしまうのか、男性陣が訝っているの。

 女性陣は『どうせ襲われるんだから、バッチ来~い』のカヌレちゃん理論で、開き直ってます。


『輸送艦が、またエンジン冷やすから亜空間を抜けるとさ』


 自分の曲が出てこないから、イジケてるショウが、投げやりに伝える。

 だから、アニメの曲も作れば良かったんだよ!

 ファンが嫌がるのはわかるけど、私は喜ぶんだから。


 軽い目眩と星が流れて、通常空間に戻る。

 わおっ! 何だか凄い所に来たよ。

 左舷の巨大な彗星が圧巻。白色ではないから、中から艦隊が出てきたりはしないと思うけど……。そんなのが相手なら、波動砲プリーズ。

 前方には紅色の光を伴った紫色のガス雲。ビリビリと稲妻が奔ってるよ?


「……誘われたような場所だな」


 エグザムさんの呟きは正しいと思う。何も無いなら、わざわざこんな風景を作るはずがないというメタ読みだけどさ。


「くぅ……ベータの頃から、戦場の変化に乏しいのが難点だった。こういうのを待ってたんだよなぁ」

「男性陣がイキってますね~」

「モモちゃんも浮かれてるし」


 エトピリカさんの感慨もわかる。

 絶対、ここで戦闘があるよ。きっとあのガス雲の嵐とかがネックになるんだ。


『お待たせしました。って感じだな。前方ガス雲の陰から、識別不明の艦隊接近』


 長距離センサーの恩恵で、索敵範囲の広い私が報告すると、なぜか歓声が湧く。ピンチなはずなのにね。みんな、そんなにここで戦いたいのかい?


「えぇと……貴艦隊の所属を教えて下さいっ。応答なき場合は敵とみなしちゃいますっ!」


 カヌレちゃんもワクワクするのは、所属確認の後でしょ。……でも、もう良いよね? 明らかに通信を無視してるっぽいから、アレは敵で良いよね?


「どうせイベント緒戦だ。大した戦力で来ないだろう? ミナさんは前進して、こっちが向こうの射程に入る前に数を減らしておいて。モモさんは後方監視。伏兵に備えて。他は輸送艦を守りつつ前進」


 我らが司令塔、エトピリカさんの指示で私は一気に加速する。

 敵の数はいつもの初級海賊退治の倍くらい。艦隊編成はまだ、不明。


「射程に入ったから撃つよ!」


 ミナ艦隊の一斉砲撃。ダメージは与えたと思うけど、今日は敵の数が多い。次のターンも連射だ! って、向こうからも撃ち返して来た? 

 ウチの艦隊並みのロングレンジ砲艦がいるんだ……。艦を護るバリアはあっても、強度は低い。着弾のダメージにグラグラと艦が揺れる。

 何気に、初ダメージだったりする。

 負けずに次も撃ち返す。脚を停めてる長距離砲艦隊を狙い撃つ。射程の長い艦隊の厄介さは、私が一番良く知ってるから。

 こっちにもダメージは貰ってるけど、艦隊狙い撃ちのできる分、敵のダメージの方が大きい。他の敵艦隊の射程に入るまでは、あと二ターン。

 この一撃でどこまで減らせるか……。

 相打ち覚悟の私の目前に、鮮やかなブルーのバリアフィールドが広がった。

 敵の射線をシャットアウトしてくれる。


「今日は『演出』抜きで、活躍できました」


 わあっ。しーちゃん艦隊。来てくれたんだ。

 その後ろから、エトピリカさんに守られるようにエグザム、マサくんの両大口径砲艦隊が進撃してくる。


「ミナさんは一度下がって、モモさんと交代。エグとマサはぶちかませ!」

「まかせろ」

「ウッス」

「ミナさ~ん、タ~ッチ」

「良いけど、まだ超ロングレンジが残ってるけど大丈夫?」

「そっちは、暴れたがりのカヌとデゴに任せれば良い」

「またもや、対艦ミサイルが火を吹いちゃいますっ」

「僕の艦隊まで撃たないで下さいよ?」


 モモンガさんと擦れ違うように、私は輸送艦の直衛に着く。

 今回は移動の私が振り返ると、主戦宙域にはビームとバリアの花が咲いていた。初級海賊退治より多いとはいえ、数ではこちらが有利。バリア艦が二艦隊揃えば、敵の攻撃など完封できる。

 そして、マサくんの強化大口径砲が強い。

 バリアに減衰されても、通常砲くらいの破壊力を残してるみたい。これぞ力技って、感じで押しまくる。

 ここから先は、足を止めての撃ち合いだ。

 次のターンには機動艦隊のお二人さんが、敵超ロングレンジ砲艦隊に襲いかかる。機動力はD51さんの方が上らしく、先に突入。前のターンに狙われてダメージを受けた、怒りのカヌレちゃんが遅れて突撃する。


「痛かったんだよぉ!」

「うわ……本当に、機動艦隊に対艦ミサイルはエグいんですね」

「凄いっすね」


 初めて見るのか、D51さんとマサくんが唖然としてる。

 本来はバリア艦用の追加武装と、D51さんが教えてくれた。拾ったからと、機動艦隊に装備してしまった、カヌレちゃんの無邪気さの勝利だ。

 ……敵超ロングレンジ砲艦隊、壊滅。

 私とモモンガさんは(私はここからでも撃てたりする)敵機動艦隊を狙撃中です。

 ふふふ……圧倒的だな、我が軍は。


『悦に入ってる所、悪いが……彗星の向こうから敵の伏兵だ』

「何ですと?」


 彗星の影響下に紛れて、接近されたみたい。驚かされたけど、不意は突かれていないよ? せっかくの舞台装置を使わないわけ無いもんね。

 接近速度から、機動艦隊とみた!


「ミナさんっ。すぐに行くから待っててくださいっ」

「やだ、待たずに撃ち落とす」

「本当に出来ちゃいそうな所が、怖いですね」


 D51さんは苦笑しながらも、救援に向かってくれる。

 エトピリカさんの指示が飛ぶ。


「そっちはもう、好きにやってくれ。本隊はせっかくあるんだから、ガス雲に押し付けるように擦り潰せ! 降参するまで一隻も逃すな」


 半包囲に陣形を変更して、敵艦隊にガス雲を背負わせる。

 エトさん、ずっとこれをやりたかったと、声に滲んでるよ?


 ジャンケンみたいなもので、ロングレンジ砲艦隊は機動艦隊が苦手。懐に入られると、ひとたまりもないんだ。でも、それを補う距離がある内は、こっちが一方的。ましてや長距離センサー付きだぞ?

 機動力のために犠牲にしてる防御の薄さを突いて、撃破しちゃった。やっと襲い掛かれる距離まで来た、カヌレちゃんのブーイングが心地良い。

 敵も最後まで抵抗を続け、本隊の猛攻に全艦玉砕した。

 輸送艦に被害無し。完璧。


「でも……敵艦隊は、海賊っぽくなかったですよね?」


 D51さんが首を捻った。

 確かに、超ロングレンジ砲を持っていたり、降参せずに玉砕したりと利益度外視だよ。


「それも、先に進めば解ってくるだろう?」

「現地に行って見て学ぶ、修学旅行ですからっ」

「お気楽~お気楽~」


 あぁ、カヌレちゃん理論が蔓延してるよ……。

 回収品は、モモンガさんが長距離ミサイルを、マサくんが対空パルス砲を拾った。

 でも、対空パルス砲って……空母でも出てくるのかな?

 ちょっと怖いんですけど。

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