ミナが征く星の大海~リライトサガ・オンライン

ミストーン

遺されたもの

 葬儀は遺された人の為にあるものだと、実感している。


 私の人生の総てと思っていたショウを、病魔で奪われて半年。

 ベッドの上で力無く伝えられた『残務処理』を全て終えるまでは、私はショウを追いかける資格さえない。

 呆然としながら、次々に押し付けられる行事をこなした後は、そう思って頑張って、半年生きてきた。

 ショウの為に集まってくれた人たちを、託すようにしてマネージメント事務所を閉じ、同じようにしてショウの専用レーベルも閉じる。

 ファンクラブの閉鎖も同様に行うつもりだったけど、ファンの子達が独自で続けたいという意志が強くて、同人誌のような形で残すことにした。

 もう新譜は出ないとはいえ、ショウの遺した音源や楽曲。他者に提供した楽曲などの著作権料は膨大なものになる。

 それを管理する会社を新たに立ち上げて、私はその『ブルースカイ』社の社長になった。

 社名を決めていたのもショウなら、ずっと私に版権管理の仕事をさせてくれていたのもショウだ。

 おかげで私は慣れた仕事として、ショウがいた頃からのスタッフとともに苦労もなく過ごすことが出来ている。


 ……子供、欲しかったな。


 一度だけ機会があったけれど、流れてしまった時は一週間泣き続けた。

「またいつか、チャンスがあるよ」と慰めてくれた人は、そのチャンスをくれないまま、逝ってしまった。

 ショウが私についた、ただ一つの嘘。


 もういいよね?

「あとを追いかけない」って約束したけど、私も嘘を一つだけついても、良いよね?

 ショウの遺したものは全て、ショウを奪った病気の治療法を研究する財団に寄付して逝くなら、誰も私を叱らないはず。

 天涯孤独のショウ。ウチの両親には、アイドル時代の私の歌唱印税やショウが買い入れた私の原盤権なんかがあるから充分だろう。

 先立つ不幸はあるけど、きっと解ってくれる。

 姓は変わったとはいえ、あなた方の娘、星生美菜ほしお みなは、そういう娘だって。


 そう決意して、なるべく痛くなくて、苦しくない死に方について研究し始めた頃に、見透かしたように『ソレ』は私の元に届けられた。


「……ナニコレ? VRユニット?」


 そういう物があるのは知ってる。

 それを付けて寝転がって、五感を委ねたゲームが遊べる機械だ。CMで良く見るから。

 でも私は、ゲームなんてしないからなぁ……。

 ショウは好きでよく遊んでいたけど、私はその背中にじゃれついて、画面を覗きながらチャチャ入れしてる方が好きだった。

 心臓がドキンっと跳ねたのは、同梱されていた小箱を見た時だ。


「ショウ?」


 綺麗にラッピングしたリボンに、カードが一枚挟まれてる。星座のペガサス座にイニシャルのSを重ねてデザインされた、ショウのマークだ。

 そのカードを開くと、懐かしい筆跡が踊っていた。


『ミナ、俺の最後の仕事だ。

 このゲームの音楽を担当した。

 お前が知らない七十二曲が、このゲームの世界に残っている。

 探してごらん?

               ショウ』


 ずるいよ、ショウ!

 ショウの作った曲は、まっ先に私に聴かせてくれる約束だよ?

 ゲームのサウンドっていうことは、このゲームのスタッフの方が私より先に、聴いてるじゃない!


「お前、ツッコむ所が違うだろう?」


 なんか、ショウの声が聞こえる気がした。

 でも、ずるい。約束が違う。

 それに……私の知らないショウの音楽があるなら、それを聴かずにはいられないじゃないよ!

 開発スタッフに連絡して、音源を聞かせてもらうことはできる。

 でも、ショウはゲームに厳しい。

 遊びながらいつも


「ゲームや、映画のために作った曲は、その場面に初めて耳にするべきなんだ。先にサントラみたいなもので聞いてしまうと、その良さが半減する」


 と言っていたくらいだから、そんな事したら怒られちゃう。

 ゲームなんて、パズルゲームをちょっとしたくらいだけど、ショウの音楽を聞くためなら、私はいくらでも頑張れる。

 いーわよ、やってやるわ!

 全部聞いたら、今度こそショウを追いかけて行って


「よくも七十二曲も隠してたわね!」


 って、抱きついて、ゲンコツで胸をどこどこ叩いて文句を言ってやる!

 ショウが何を望んで、私にこんなことをさせようとしたのかは知らない。

 でも、そういざなわわれたなら……踊ってあげる。


 私は、VRユニットとやらの配線をして、電源を入れた。

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