レジェンダリー・デスクユーザー

キューイ

四年生の初日、机の裏

 僕は戦慄した。四年生とはどんな学年か、という一番最初の説明をする先生の話が聞こえなくなるぐらいに戦慄した。


 四年生はもう高学年だ。人の話は目を見て聞くということができる学年だ。だけど僕の目は新しい机の中から出てきたメモ用紙に釘付けだった。まず一行目に書かれていた内容は鉛筆で書かれていて、かなりくすんでいた。けど読める。


 二〇〇八年 タカヒト 大角と鋼の鎧を持つ六本足のモンスターを捕獲


 タカヒトは昔この机を使っていたのだろう。そしてこのメモ書きを机の奥に入れておいたのだ。僕の先輩はすごい戦士だったらしい。でもそんな戦士はタカヒトだけではないようだ。二行目を見て、僕はホームルーム中なのに声を漏らしそうになった。


 二〇一三年 ハル 激痛に耐え、巨人達を越す体躯を手にした


 ハルはどんな手を使ったのだろうか。とんでもない飲み物でも飲んだのかもしれない。身長を高くするには牛乳だけど、きっと牛乳よりもやばい飲み物に違いない。そしてその飲み物には対価がある。だけど痛みを耐えれば巨人よりも大きくなれるんだ。そしてそれを僕ら後輩に伝えるためにタカヒトと同じように記したんだ。今度こそ僕は声を漏らした。先生が一瞬こちらを見た気がする。でも僕は三行目に夢中だった。


二〇一九年 タカアオ 光る石板を手にした。人類の叡智の詰まった石板だ


 タカアオはどんな冒険をしたんだろう。今は中高生だろうな。


 この机を使った先輩達は強く、気高く、勇敢な者たちだった。僕はそんなふうになれるだろうか。いや、なるしかない。でも今のところ彼らのような誇れるエピソードはない。


 とりあえず最近で一番嬉しかったことをカッコよく書こう。そう決めた。その後で本当の偉業を成し遂げた時に書き直せばいいのだ。


 チャイムが鳴った。起立、気をつけ、礼をする。みんなは新しいクラスメイトと共に話をしている。先生はボードを持って先生用の机にかけた。


 僕は鉛筆を握り、スラスラとメモ用紙に一番誇れることを仮として書く。三年生の最後あたりの体育の授業で、僕はなんと跳び箱の七段を飛んだ。それはクラスでは誰もできていない。そのことをカッコよく書こう。


二〇二四年 シュウ 天をつくような山を飛び越した


 僕はよし、と言って机の中にそのメモ用紙をしまいこんだ。

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レジェンダリー・デスクユーザー キューイ @Yut2201Ag

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