第4話 集合
面接はあっという間に終わった。
経緯と志願した理由、あとは家族関係等々。
いつも以上に真っ直ぐな目つきがかなり怖くて、上手く話すことができなかった。
私が最終で、15分後に体力テストとバイオ適合テストが始まる。
15分、知らない子とトレーニングルームにいるの、落ち着かない。
ラジオを聞いて集まったのは、同年代の女の子2人。
男の人が来るのかなって勝手に思っていた。
隅っこでストレッチをしながら、近くにいる子をチラッと覗く。
右側に髪を結んで、背は私より高く、手足も長い。
いかにもスポーツやってます、って感じの体。
離れた場所で静かに待っている子は、綺麗なロングヘアで凛とした佇まい。
なんていうかオーラを纏っているような、気迫を感じる。
「ねぇ」
近くから、細い声が聞こえて心臓がドキッと驚いてしまう。
話しかけられた……変に思われないよう気を付けなきゃ。
「は、はい?」
「体力テストって何やるんだろうね、何か聞いてる?」
「え、えーと、ごめんなさい、分からないです」
「そんなかしこまらなくていいじゃん、同い年でしょ、16歳」
2つも下だった。
私、幼く見えるのかな……。
「う、うん。ありがとう」
素性話せないし、話を合わせておいたほうがいいよね。
「よろしく、私こう見えて体力にはかなり自信あるんだ」
命を落とす危険だってあるのに、気楽な子。
「そうなんだ……スポーツしてるの?」
「うーん、まぁちょっとね」
言葉は濁すけど眩しい笑顔だ。
「ちょっと、2人ともうるさいですよ」
離れた場所から強めの声が飛んできた。
鋭い目線で私たちを睨んでいる。
「ごめんなさ」
「私語を慎めなんて言われてないでしょ、声抑えめにしてるんだけど」
謝ろうとした私を遮って、反抗。
「響いてよく聞こえるんです。集中の邪魔、たかが15分ぐらい黙ることできるでしょう?」
「はぁー? イヤホンつけたらいいじゃん」
「非常事態だというのに呑気なことばかり言って、死にたいのです?」
「合格しても数か月ぐらいは訓練するんだしさ、永嶋さんだっけ、あの面接官が教えてくれるじゃん」
どうしよう、永嶋司令が来るまでまだ5分ぐらいある。
「あ、あの……2人とも」
「アナタもなんですか、さっきからビクビクして、見ているだけで苛立ちます」
そんな言い方しなくても……言葉も声も強いな。
でも、命を落とす、そんなの十分に知っている。
「あーもう! せっかく打ち解けようとしてたのに、テンションだだ下がり。合格したらチームになるんだから、これ以上のマイナスはやめ」
「お気楽に考えているようなら、すぐ死ぬことになります。現実はそう甘くありませんからね」
みんな散らばってしまう。
空気がどんよりしていて、居心地が悪い――。
しばらくして永嶋司令がトレーニングルームに入ってきた。
体力テストは主に持久走。さすがに外では難しいから、トレーニングルームでひたすら1時間走るという。
手首に巻く小さなバンドを渡される。
私たちの身体を計測してくれる機械で、一定の速度を維持して走るのがテスト。
速度が落ちると減点されていく、速度を上げると加点。
私は減点されないように走り抜くしかない。
開始からまだ10分、もう息が上がってきた。
どんどん引き離していくのは、やっぱりスポーツが得意なあの子。
そこにしがみつくよう走る口調が強いあの子。
「そんな無理してペース上げなくてもいいし、近いと走り辛いってば」
「貴女こそっ、スポーツが、はぁ、得意なのか、はぁ、知りませんけど、調子にのらないで、ください」
「乗ってないし、あーもうしつこいな」
「ま、まちなさいっ!」
場違いな気分だ。
たった3日じゃ体力なんてつかないよ。
追いつこうとすると苦しい、速度が落ちそう。
気持ちだけではどうにもできないみたい。
でも、それでも、このまま終わってしまうのは、残りのすべてを諦めてしまうんじゃないかって気がする。
周回遅れを重ねても、1時間走り抜かなきゃ……いけない――。
――アラームが鳴った。
同時に落ちた汗が靴を滑らかにさせて、膝の力が抜けていく。
あ、これ、倒れる……。
頭で分かっていても、体はどうしようもなく落ちる。
背中に温かい手が触れた。
傾いた私の視界に映り込んだ2人の顔。
「君、1時間頑張って走れたね!」
「ふぅ、冷や冷やしました。頭を打って即退場だなんて、あんまりだもの」
多分、2人が同時に助けてくれたの、かな。
お礼を言いたいのに、喉に力が入らない。
「よし、体力テストはこれで終了だ。よく頑張ったな」
永嶋司令の優しい声が微かに聞こえた――。
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