病は帰から

ラス

王宮生活編

第0話 【よくある異世界召喚】

結論から言おう。

俺はよくある異世界召喚的なものに巻き込まれた。

でもそれはよくある物語の始まりではなかった。




「「ありがとーございましたー」」


一日の終わりのHRがいつも通りに終わった。

俺の名前は佐上 暮。サガミ クレだ。

自分で言うのも変だけど、普通の高校生だ。

(今日も疲れたなー)

特に不自由なく暮らしている俺に不満は無い。

でも、少し暇だった。

よくあることだ。誰だって非現実的なことには憧れる。

最近だと異世界モノとか。昔だったら―何だろう?

何か凄いお金持ちの貴族とかだったのかな?


「「うわぁ!何だこの光!」」


そうそう、こういう謎の光に包まれて・・・

ん?謎の光って?

「うわぁ!マジじゃねえか!誰がほんとにこんなこと起きてくれって言ったぁぁぁ!?」




「ここは・・・?」

よく分からない白い空間が広がっていた。

まさか本当にこんなことになるとは誰も思わないだろうが!

なんだ?異世界召喚やら転生やらって本当に存在したのか!?


(ここは叡智の場・・・)


「えー?これが異世界ってやつー?」

「うわすげえ!」

「叡智の場ってなんだ?やっぱチート的なスキルでも貰えるのか!?」


高校生にもなった現代人が大はしゃぎである。

休め現代人。


(あなた達はどこかの世界に呼ばれたのです・・・)


やはりこれは異世界召喚ってやつなんだな・・・

あんな冷めた感じのこと言っといてあれだが、

実際すっげえテンションが上がる!

だってあの異世界だ。

きっと最強のスキルを貰って無双して・・・

いや、ここはあえて余り物の弱いスキルを選ぶのが最近の定番だ!


(違う世界は不便でしょうから、あなた達にスキルを与えましょう・・・)


よっしキタ!これぞまさに異世界召喚!チートスキル!

魔王かなんかを倒しつつ名誉と良い暮らしを!あわよくばハーレム的なものも・・・


(さあ!選ぶのです!)


「うおー!早い者勝ちだぁぁぁ!」

「うわ!すげえ!既に名前が強そう!」


声が聞こえたほうを見ると、そこには恐らく人数分であろう数のホログラムっぽい文字が入っている棚があった。

きっとあの文字がスキルというものなのだろう。

さてどんな風に選ぼうか。

安直に剣とか物理系か?それともせっかく異世界に行くなら魔法系の方がいいかな?


俺が出した結論は、最近読んだ異世界モノの作品であったように余り物を選ぶことだった。

そうそう、一見弱そうなやつが強くて最初蔑んできた人々に頭を下げさせるんだ。

憧れるよな!


選んだ奴から消えていった。

皆が選んだスキルはいかにも強そうなやつだった。

『聖剣士』やら『一級魔術』やら『超成長』やら『魔技師』なんてのもある。

そして余ったのは・・・


『健康』

うーん見事な雑魚そうっぷり。

普通は「健康・・・?ハズレかぁ・・・俺は異世界に行っても所詮その程度の奴ってことか・・・」

などと落ち込むことだろう。

しかし、俺はそうは思わない!

これは期待が持てる!きっと毒やら傷やらも「健康!」とか言って即回復する系だ!

最初は蔑まれて追放とかされるけど、圧倒的耐久力で徐々に実力を見せて「ざまあ」とか言っちゃう系の奴だ!

やはり俺の考えは間違ってなかった!

『余り物には福来る』って言葉を考えた人に称賛の言葉を送りたいくらいだ。


・・・気付けばこの空間には俺一人になっていた。

恐らくこのスキルとやらを習得した瞬間、どこか違う世界に呼ばれるに違いない。


現実世界にまったくの未練が無いというわけでは無い。

俺には今まで育ててもらった親がいるし、受験勉強も人並みにして中の上くらいの成績は保っていた。


異世界に行ったら現代社会の科学文明の恩恵は得られないだろう。

もし最初に蔑まれるフェーズで死んでしまったらどうなるのかも分かっていない。

もしかしたら普通の高校生活を送って、進学して、就職して、たまに美味しいご飯を食べて贅沢したり友達と馬鹿笑いしたり、そのままどこかで結婚して、老いていく。

そんな生活の方が幸せなのかもしれない。


しかしだ。俺は既にこんな非現実に巻き込まれてしまった。

きっと後戻りはできないのだからこんなことを考えても意味が無いのだろう。

正直楽しみだ。俺は読んでいた異世界モノの主人公ほど上手くやれないかもしれない。

だが、誰だってそう分かっていても憧れるものだろう。

異世界ってやつに。


そうして俺は『健康』というスキルに手を伸ばした。




光に包まれた俺は眩しくて目を瞑っていた。

しばらくして目を開けると、そこにはいかにもっぽい部屋にいた。

石の床に豪華な赤色のカーペット、壁はレンガ造りで金色の装飾品がいくつもある。

床には魔法陣っぽい物が描かれていた。


「これで全員か?」


目の前にはローブを着た人々と甲冑を着ている人とちょっと偉そうな男。そして死ぬほど豪華な服を着てる男が一人。

恐らく魔法使いと護衛と宰相、そして王的な感じだろう。


「さて、いきなりで悪いがあなた達は私が召喚した。」


王っぽいやつが話しかけてきた。


「えっと・・・ここはどこなのでしょうか?そしてあなたは?」


おっと、クラス一の優等生の北川キタガワ クロ君だ。流石優等生。落ち着いている。

北川君はスポーツはそこまでできないが、勉強に関しては学年でもトップレベルで、この場で情報を確認するために出てくる人物として最適だろう。


「ここはアンサダ王国の王宮。私はアンサダの王、スノーテだ。」


やはりこいつは王だったか、てか王っててっきりもっと老けているイメージがあるけど結構若いな・・・


「えっと・・・それで僕たちは何故ここに?」


流石北川君。しっかり情報を引き出してくれる。


「それは今から説明しよう。」

「我が国は経済と技術に関しては一流だ。しかし、悲しむべきことに人材は不足している。」


「つまりその穴を埋めるために優秀な『スキル』を持ってやってくる者たち・・・つまり、僕たちを召喚したと。」


「その通り。理解が早くて助かるよ。」

「現在我が国は出生率が低下し、様々な分野で跡継ぎ不足が問題となっている。」


どうやら異世界でも少子高齢化は問題らしい。


「そこであなた達を別世界から召喚させて貰った。」

「私たちに仕組みは理解できていないが、別世界からこちら側へ渡るときはスキルと呼ばれる特殊な力を習得するらしい。」


そこまで言われたところで北川君の横にもう一人人影が。

あれは千橋センバシ 明日アス。力自慢の脳筋だ。良い奴ではあるんだが、いかんせん脳筋だからな・・・

大丈夫か?


「おいおいつまり俺たちの力が必要ってことか?つまりなんだ?兵士とか職人とかになれってことか?」

「まさかタダって訳じゃないよなあ?」


「もちろん。あなた達には今の我が国で用意できる最高の生活を約束しよう。」

「さあ、この王宮の案内と、この世界の基礎知識を教えよう。」

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