第1話
「ただいま」
マネージャーの下手な運転に揺られて、どうせ誰も起きていない時間に家についた。たとえ真っ暗な玄関に向かってでも、こんな言葉を言ってし まうのは幼い頃に受けたしつけのせいだろう。単独ライブが終わって、挨拶もそこそこにシャワーを浴びたけどやっぱり家の風呂でゆっくりした い。あんな短時間の水浴びごときで、体力勝負なライブの疲れがとれてたまるか。リビングのドアを開き、台本やら衣装やらで重たいバックをソフ ァーに投げ捨てた。
「あたっ......」
不抜けた声がして誰もいないはずのソファーから塊がむくっと起き上がった。
「いてて......痛いよ。星弥」
「そこで寝てる姉さんが悪いでしょ」
「星弥、ごめんなさいは?」
「姉さん、お疲れ様は?」
薄暗いリビングで表情の読めない塊に問いかければ、折れたのは彼女だった。
「おかえりなさい。ライブお疲れ様」
「ただいま。顔にぶつけてない? 不細工な顔になってるけど」
わざとらしくからかってやったのに、ぷりぷりと怒り出す姉さんは年上に見えない。童顔も相まって、これで本当に大学生活できてんのかなんて 疑ってしまう。照明のリモコンに手を伸ばし、無機質な人工光を灯してやれば、彼女はふくれっ面だった。
「人気アイドルの美空くんが、女の子にそんな酷いこと言っていいと思ってるのっ」
「俺と
遠くで聞こえる、可愛くないとか生意気とかいう抗議を振り払って、風呂に向かう。大きくあくびをして俺の帰りを待っててくれる愛らしいお姉さまにおやすみと呟けば、彼女は嬉しそうに目を細めた。
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