僕らの駆け落ちはリアルから。

糸守 心臓

序章

「二十三時か…」


 布団の上、ぬるま湯のような熱帯夜に耐えながら僕は呟いた。

 網戸の先では暑さに耐えかねたせみがシャワシャワと悲鳴を上げている。それに紛れて、僕は父さんが起きないようにそーっと玄関へ向かった。

 静かに玄関を開け、夜の空を見上げる。


 外も中も変わらず暑いな。


 僕は空を見上げながら歩みを進めた。瞬間――ぐしゃ…。と、右足の裏に怖い感触が走る。蝉だ。ギギッ…とうめいて、それはすぐに死んだ。

 僕は足を上げる。下半身は潰れていて、まるで壊れたロボットのようにひっそりと動かなくなっている。


 僕は顔をしかめ、死んだそれから目を逸らした――クソ。


「…行くか」――嫌な現実から逃避しに。

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