第13話

「異能馬券師ケンタロウ!」 13


第2章  初めての一歩


(3)


「アルデバ・蘭と申すものでございます。当錬成道場にようこそおいでくださいました」

屋敷から出てきた老婆は腰の曲がったいわゆる『魔女』という表現がぴったりな感じのしわくちゃの婆さんだった。

「蘭さん、しばらくご厄介になりますね」サエコは神妙な面持ちで頭を下げた。

「どうぞどうぞ。これからの修行はいささかお辛いこともあろうかと存じますが、なんとか耐え忍び、成長されますようにお手伝いさせていただきますわよ。卒場の暁には、それぞれが栄光を掴まれることを心よりお祈りしておりますわ」

 なんだか蘭さんの優しげな言葉使いに一気にみんなの緊張がほぐれた。


 屋敷の内部はそこそこ広かったが、数十人が動き回れるというほどでもなかった。

 それでも4人には広すぎる道場で、早速修練が始められた。

「第一段階はまずこれよ!」

 黒と白の15センチほどの○がランダムに表れては消えるといった、大きなシートの上でのたうち回るゲームのような修行だった。素早く足を方向転換させるのはなかなかしんどい修業だった。

 そのあとはESPカードによる透視能力の連続テスト、軽い物から徐々に動かす念じる力の強化、さらには心理学や神教、集団催眠など……ありとあらゆるオカルト的な修行を課せられてゆくのだった。

 毎朝5時に会社に集まり、往復4時間をかけてアルバデルンへ4人は通い詰めた。宿泊も可能なのだが、サエコによるとそこまでの予算が出ないということであった。

 日を追うごとに修行の難易度は高まっていった。4人とも必死の形相で食らいついていった。

 アルデバ・蘭の口調はいつも丁寧で優しかった。どんなに苦しい修業に成績不振であろうとも、怒鳴り散らしたり怒ったりはしない。ただ淡々と独自に開発したカリキュラムをとことん推し進めていくといった指導方法だった。

 ユウジはそんな蘭にある種の不満を感じていた。

「あのう~失礼ですが蘭さんは現在おいくつであられましょうか?」無礼千万なユウジは稽古の合間に一番聞きにくいことを突っ込んだ。他3名から注ぐ白い眼もお構いなしだった。

「あっはっはっはっは。直球で攻めてくるわねえ~あたくしは当年78歳ですわ」

「ははあ~大変失礼いたしましたあ。あのう……それでですね」

「はい? 何かしら」

 ユウジはさらに追い打ちをかけるぶしつけなことを聞いた。

「そのお歳の方であれば、まあ普通に○○じゃろうとか、○○じゃのうとか、わしは○○じゃ……ていう風に『じゃ』を常に付けてお話しになるのかと思われるのですが……」

「あっはっはっはっは。なるほど。マガジンではだいたいそうなのかも知れませんね。でも逆にお聞きしますが、○○じゃていう風にお話しになるご老人の方を、わたくしまだこの世で一度もお見かけしたことがございませんのよ。その辺どうお感じでしょうか? たま~にお若い方が、パロディ的にお使いなさる感じはありますわねえ」

 ユウジは突然、頭の中を何かが破裂したような感覚を覚えた

「あ~~そうかあ~~。『じゃ』はもうとっくにすたれてたのか……くっそうしまった。じゃの道は蛇、じゃの道は邪道……そうかようやく何かをつかめそうだぞ!!」

 ユウジはじゃっかん思い入れが激しかった。

「馬鹿は置いといて我らの錬成のカリキュラムも煮詰まって来たよ。いざやるぞ~!」

来る日も来る日も苦しい修業は続いた。

 10日も通い続けると、4人はとうとう、俺たちは何でもできるぞ! 空だって飛べるはず! といった妄想に捕らわれるようにまでになった。


 朦朧としながら立つだけがやっとな状態の4人に最後の試練が伝えられた。

「ふむ、これまで熾烈な修行に曲がりなりにもよくぞついて来られましたな。では、最後に卒業課題を授けますよ。はい、この裏庭のどでかい岩をよく見てみて~」

 蘭が指示した先には大きな大きな岩が鎮座していた。

「え? 何このでかい岩」

「この岩は1000年も前から当家に伝わる厄除けの守り神ですのよ。最終卒業試験はこの岩をみごとに割って見せること。ただし素手と馬券以外は一切何も使ってはなりませんわよ」

「えっえええええ~??? 刀さえなくていったいどうすんの~~」

 4人は一斉にブーイングしてみたものの、蘭さんは素知らぬ顔でそっぽを向いた。

「いいからとっととやるのじゃ!!」

「じゃじゃじゃっ?」

 蘭さんは鬼のような形相だった。


 続く


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