第11話
「異能馬券師ケンタロウ!」 11
第2章 初めての一歩
(1)
「100万損して得取れ蓮火(ファイヤ)~!!」
「逃げ馬呪念縛り~!!」
「両段再拝祈りの舞~!」
「花束演舞くちなしの花~!!!」
……全く歯が立たなかった。
年が明けて1月6日に行われた今年最初の中央競馬の初仕事にケンタロウたち4人はことごとく敗れ去った。
それぞれの技(オカルト)の何やら怪しげなかっこつけ名称も、意味をなさなかった。
3日間の開催において4人はほとんど全財産を失ったのだった。
「何故だ? いくら何でもおかしいぞ。全く歯が立たん~~」
「うわ~~~ん」
「ああ~もうだめだ~」
「何かがおかしい……あたしたちの能力が何かに遮られているかのようだ……」
「そんなことってあるの?」
「もしかするとだが、強力な異能力者がどこかに潜んで邪魔をしたのかも知れない」
「ええ~~? きったねえ~~だったら出て来いよな。普通はそういう奴って、自己紹介しながら姿を現すもんじゃないのか? ジャンプならみんなそうだぞ俺と戦えとか言ってさ」
「そんな親切な敵ばかりじゃないさ。しかしいったいどんなやつだろう。確かに邪念のにおいは感じていたが……あれくらい打ち消せるはずだった」
4人は途方に暮れるばかりだった。
その姿をモニター越しに見つめる3人の中年男の姿があった。
「どうですドルモゲイツ長官。こやつの能力はなかなかのものでしょう」
「ほほう。たしかに結果は出たようだな。いったいどんな技を?」
「説明してやってくれ、ヒッテラー課長代理」
そう呼ばれた課長代理は、チョビ髭を生やしたどこかさえない感じの小男だった。
「へい。造作もないことでしたよ。アタシの生まれつき持つこの貧乏臭さ、そこへ不満、怒り、ストレス、憎しみ、妬みなどの負の感情をこれでもかと練り込み、そしてシャッフルする、それを永年に渡り繰り返すことによって巨大な邪念のチカラが身についたのですよ。嫌でも染みついたと言う方が合ってるかも知れません。それをあの能天気な奴らの周辺に少しばかり降り注いだだけのこと」
異様なほどに強烈な貧乏臭さがヒッテラーの周辺には漂っていた。
「な、なるほど……これはまた大したものだ(……うわ、近づくなよ貧乏臭ッ)」
「はっはっはつは。これでもう安心ですぞ、長官」
「そうだなあ……よくやったアルマゲドラー事務総長。ご苦労(はよ出ていけ)」
「では早速、祝杯と行きましょうか」
「う、うむ。今日はまあいいかな……」
「え? なんでですか。せっかく用意を」
「ううむむ。とにかく……ハナレロッ」
「ははあ~~?」
そんなやり取りも知らずにケンタロウ一行はショボくれてS競馬場を後にした。
暗い雰囲気に沈む『明るく健全な未来作りの会』社有車、通称『アカケンカー』の車内だった。
「徳だ。徳を積むんだ。あたしたちのこの能力をさらなる高みへと進化させるためには、これ以上ないほどの徳を積もう!!」
助手席のサエコが急に叫び出した。
「え~~またアレ~~?」
打ちひしがれるユウジが悲鳴に似た声を出した。
ケンタロウは明日からの生活をどうするかで胸がいっぱいで何も入ってこなかった。
「そうですね、そうしましょう、トクトクマルトク大作戦!!」
運転手のレイは快調に飛ばし、クルマはメチャクチャに揺れた。生粋の車好きなのだった。
「明日は全員、朝6時事務所に集合だよ~~」
「お、おおううううう」
冷めた缶コーヒーは涙の味がした。
₎
続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます