緊張

咲希と待ち合わせにしているカフェはワッフルが美味しいことで有名なカフェだった。映画館で映画を見た後に、寄りやすい位置にあるため、デートスポットとしても有名だ。


うわぁ!いい香り!

そうだね〜!


と笑いながら彼女(レンタル)と話す予定だった俺の隣には幼馴染がいる。



映画館で初めて見た小瀬川 泉としての姿は少し違ったスポーティーな服装で、ショートボブの髪型と似合っていた。ただ、今日は予定よりも気温が高く汗をかいてしまうような暑さだ。それなのに俺がスポーティーな服装を頼んだせいか、胸の谷間が濡れて透けているから心臓に悪い。凛音の百五十センチ台半ばの体には不釣合いな大型兵器が俺の目を集中砲火している。


こんな魅力的な女性を男性がほっとく訳がない。

凛音と咲希は高校の中でも美しいと有名な女子で、告白された回数は俺が知っているだけでも10件は優に超えている。


凛音と咲希にはそれぞれ違った可愛さがあり、クラスの男子が修学旅行の部屋で「凛音と咲希のどちら派か」という話題で熱く語っていた。


そんな俺に「涼は幼馴染で羨ましいよ〜!気兼ねなく話しかけられるからな!」

とよく言われるが、実際はそんなことない。こんな陰キャが学園でも有名な美女に話しかけているところを俺と2人の関係を知らない男子が見てしまった時はもう最後。

なんでこんな陰キャが美女と話せるんだよと殴られてしまう。


だから気軽に話しかけることが出来ないんだ。


ただ学校外では親たちの仲が良いこともあってか、凛音の家の合鍵を持っているし、よく凛音のお父さんとも話をする。


たまに咲希の家の両親も招いて、ホームパーティーをするほど家族間の関係が良いため、俺たちは学校で話さなくても、お互いの家で話したりするのだ。



そんなことを考えていると、

「予約した店、ここで合ってる?」

と凛音に話しかけられた。


凛音が指を指した方向を見ると、確かに俺がネットで予約した店に到着した。



予約した時間までもう少し時間があるので日陰になっている部分に凛音と2人で並んで立つ。

カフェからはこんがりと焼き上がった甘い香りがしてきた。

ふと店内に目を向けると、高校生や大学生などの若い人が多くて、久しぶりにこういうカフェに来てしまったなと感じる。


「先に中に入っておきましょ」

と凛音に提案され、予約していた店に入ることにした。



「予約の西條様ですね。こちらのお席へどうぞ」

店員さんに案内され、俺たちは店の端の方にある席へ案内される。

俺が座ろうとした時に隣に座ってくる凛音。


そしてお互い、飲み物を決め、注文する。

「まだ1人、友達が来ていないので、取り敢えずアイスコーヒーとカフェラテをください」

「かしこまりました」


「ありがとう、注文してくれて」

「いやいや、俺にはこれくらいしか出来からね」

どんな時も笑顔を絶やさない凛音を見ると、本当に凄いなって思う。

きっとレンタル彼女として頑張ってきたんだなぁと感銘を受けた。



泉は店内を見渡して、

「お洒落なお店はあんまり慣れて無くて…」

とあどけない表情でぼやいた。壁に描かれている風景画や、多くのカップルがデートしているのなんて、普段俺は見ることもないので、俺の方が慣れてないなと感じる。


「え、結構レンタル彼女してて、こんな感じのお店に連れてきてもらうこととかあるんじゃない?」


すると、凛音は顔を顰めた。

そうだった、もうレンタル彼女という言葉を口にしてはいけないのだった。



「偶にあるけど、やっぱり涼と一緒に来るのは始めてだから、結構私も緊張してて…」

凛音は続ける。

「でも、涼がエスコートしてくれるから、私も結構気軽に話せるな〜!」

そう呟きながら、さりげなくボディタッチをしてくる凛音。


やばい、レンタル彼女とはいえ、凛音の破壊力が凄すぎる・・・!

カフェに入った時からラブラブしておかないと、周りからおかしな目で見られるので、彼女を演じだした凛音。



ただ、こういう行為に耐性がない俺は、顔を赤くして俯いてしまう。

折角の機会だから手でも繋げばいいのに、と頭の中では思っているのだが、緊張のあまり手が汗でいっぱいになってしまう。



今だけは凛音も俺の彼女なのに。

もどかしさと欲望の葛藤で、時間は刻一刻と流れていき、咲希と逢う時間も迫ってきていた。

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