第3話 幸せ


 夢の中。

「苦しくない? 苦しいのならこっちにおいでよ。天国はいいところだよ」

 昨日作った雪だるまが夢の中に出てそう言った。

「本当は苦しい。でももう少し生きたい。1分でも1秒でも……」

「どうしてそんなに強いの? どうしてそんなに笑っていられるの?」

「お父さんとお母さんがいるから。それにまだ伝えてないことがあるから」

「じゃ、ダメになったら迎えに行くよ」

 雪だるまはそう言うと消え去った。


 ◇ 


 3日目。

 いつもより遅く目を覚ました綾は、目の前に両親がいて驚いた。

 綾は体をベッドから起こし「どうしたの?」と訊いた。母は「綾が起きてくるのが遅いから、心配して……」と涙ぐみながら言う。

「心配しすぎだよ、お母さん」

「そ、そう?」

「そうだよ、心配しすぎ……」

 ふと窓の外を見ると一昨日作った雪だるまが溶けかけていた。

「あ、そうだ。昨日ケーキ屋さんのトラブルで誕生日ケーキ食べられなかったでしょ? ついさっきお父さんが別のケーキ屋さんで誕生日ケーキを買ってきたのよ。一緒に食べましょ」

 綾と両親は食卓へ移動した。綾は途中、フラつきながらもなんとか椅子に座ることができた。カーテンを閉め、ロウソクに火をつけ、電気を消す。

 ハッピーバースデーの歌を両親が歌い終わると、綾はロウソクを吹き消した。

「おめでとう、綾!」

「おめでとう!」

 両親は本当に嬉しそうに綾を祝福した。

「お父さん、お母さん、本…当に……ありがとう。私……お父さんとお母さんの子供で…本当に幸せ……だった。今…まで恥ずかしくて…言えなかったけど、大……好き……」

 綾は力を失い倒れた。

「大変! お父さん、病院!」

「わ、わかった!」


「娘さんは息を引き取りました。ご臨終です」

 病院で医者にそう言われた綾の両親は泣き叫んだ。もう二度と娘に会えなくなると思うとふたりは胸を苦しくした。


 外は1月にしては異常に暖かい日。庭の雪だるまは完全に溶け、空へと還った。綾の魂も空へと還るのだろうか。


 綾は数日の命を満足して過ごせたのだろうか

 本当はもっと生きたかったのだろう

 けれど

 最期は

 終わりを迎える時は

 笑っていた

 それはたぶん

 幸せだったから

 ………

 ……

 …



おわり



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余命三日の君が幸せな理由 とろり。 @towanosakura

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