第7話 そう言う事だよ!孫娘よ!


末次さんを見送り、店舗の灯りを消すと、2階から環琉ちゃんともなかちゃんが降りて来た。


「行くよ」

もなかちゃんの声に

「うん」

と返事をして、チラッと環琉ちゃんと視線を交わしたが、すぐに視線を外された。


ぼくが車のカギを取ると、もなかちゃんが

「車持ってるんだ」

「店の軽トラだよ」


環琉ちゃんともなかちゃんは、仲良く軽トラの後部座席に乗り込んだ。

公園の駐車場に車と止めると、現場まで歩くことにした。


環琉ちゃんは、青いリュックサックから大きな虫眼鏡を取り出した。

そして夜中なのに、麦わらカンカン帽をかぶった。


探偵気取りなんだろうけど、どうみても幼稚園児の帽子に見えてくる。

この子、女子大生なのに。

でも、やる気満々の環琉ちゃんは可愛い。


もなかちゃんと環琉ちゃんは、腕を組みながら楽しそうに歩いた。



「永井くん、そんなに離れて歩かないで、わたしたちを守って貰わない行けないんだからね」

ともなかちゃんがぼくの腕を掴み引寄せた。


ぼくらはもなかちゃんを真ん中に、3人で歩いた。

柔らかなもなかちゃんの胸の感触が、ぼくの腕に伝わってきた。

あの頃とは違う感触だ。


すると、誰かがぼくのお尻に蹴りを入れた。

環琉ちゃんだろう。


もなかちゃんが!

ぼくの腕を掴んだんだ!


ぼくはチラッと環琉ちゃんを見たら「お前は離れろ!」って目をされた。

なんで鉄郎爺さんの孫娘に、嫉妬されなくてはならないのだ!


ぼくがもなかちゃんから離れようとしたが、

「逃がさないよ」

ともなかちゃんはさらに強くぼくの腕を掴んだ。


そう言う事だよ!孫娘よ!


高級物干し竿放置事件の現場は、駐車場から歩いて10分のところにあった。

高級物干し竿は、公園の横の歩道に落ちていた。


歩道の公園側は、ジョギングコースがある内側と違って、木々が鬱蒼と茂っていた。そして、車道の向こう側には小さな川が流れていた。


確かにマンションらしき高層建築も、住宅も周囲にはなかった。

車道からは街路樹が遮って、5メートルの棒が竿竹屋のトラックから落ちる余裕はなかった。


ぼくがしゃがもうとすると、もなかちゃんが腕を話さなかったので、3人で同時にしゃがんだ。


長さ5メートルのその棒は、しなやかで確かに高級な感じがした。


「弾力がある。どこかで見た事がある・・・どこだっけ?

えーとこれは・・・そう、棒高跳びのポールだ」

「棒高跳び?」


もなかちゃんが、近距離でぼくの目を見つめた。


「ぼくは中学の時、陸上部だったから、見た事がある。これは棒高跳びの棒だよ」

「えっ永井くん、陸上部だったの?」

「うん、長距離の」

「ふーん、めっちゃ陸上部顔だね、ねっ」


もなかちゃんは環琉ちゃんに、同意を求めた。

そして、環琉ちゃんに少しだけ見つめらた。


陰キャだけど、可愛い部類。

しかし陸上部顔とは何だろう?


「こんな所に、棒高跳びのポールが落ちてるのは確かに不可解だね。

この公園に陸上競技場とかあったっけ?」

「どうかな。わたしこの辺の土地勘ないから」


「あっあそこに公園の地図がある!」

と環琉ちゃんが言った。


声出るじゃん!

そして良い声じゃん!


透き通るような声質で、心にしんみりと届くみたい。

ぼくは心の奥で歓喜した。


そして、環琉ちゃんの走りに合わせて、3人で腕を組んだまま走った。

もなかちゃんは、何があっても離す気がないらしい。


でも、なんか楽しい。




つづく

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