第1章 《公認チーター》⑪
幻魔竜の消滅――討伐を見て、ギャラリーが歓声を上げた。俺は報酬ウィンドウを即座に閉じ――確認は後でいい――シトラスの姿を探す。
ギャラリーの中から、昨日と同じように俺に近づいてくるシトラスがいた。
「――どうよ、一時間切ったろ?」
「……後でノート貸したげる」
俺の言葉に、シトラスは微笑んでそう応える。
「なによ、あれ――《ファントムドライヴ》の巻き戻しで《ソニックスラッシュ》コンボのSP回収してたの?」
「察しがいいな――そういうこと。俺もあの巻き戻し効果は
「クリアタイムが物語ってるね」
グッと親指を立てるシトラス。俺もそれに同じハンドサインで返す。
RPGはステータスの繰り上がりや所得したスキルで『戦えるようになった』と実感するタイミングがあるが――今日はまさにコレだ。
今のところ《ソニックスラッシュ》コンボ以外では使いどこが見当たらない《ファントムドライヴ》だが――これは研究次第では化けるぞ。
というか、アプデで弱体化されるのを心配するレベルだ。
「……お疲れ様でした」
――と、シトラスに遅れてゲームマスターが近づいてきた。胸の前で手を叩いている。労ってくれるのはいいとして――
「――で、観測の結果は? 彼がチートなんてするはずないって私は思ってますけど、不正の証拠は見つかりましたか?」
そのゲームマスターに、強めの語勢でシトラスが尋ねる。ゲームマスターは静かに首を横に振ると、深く息を吸う。
そして周囲のギャラリーにも聞こえるように、声を張って――
「事前に説明させていただいた通り、デバックでも使用する管理ツールを用いてロック様のプレイを観測させていただきました。結果、不正なアクセスや外部ツールの使用、プログラ厶の改ざんなど、あらゆる不正は見受けられませんでした」
ゲームマスターの言葉に、ギャラリーが幻魔竜を討伐したときより大きく沸く。
「でしょう!? だから言ったのに!」
胸を張って言い放つシトラス。ゲームマスターの方は俺たちに対して深々と頭を下げ、
「あらぬ誤解を招くような事態を招く結果となってしまい、大変申し訳ございませんでした」
「俺としちゃ潔白が証明されて疑いが晴れたんならそれで――」
「――ですが」
俺の言葉を遮るようなゲームマスターの言葉に、俺も、そして歓声を上げていたギャラリー立ちも口を閉ざす。
「ですが、なによ。まだなにかあるの?」
先を促すシトラス。ゲームマスターは頭を上げてその先を口にした。
「一切の不正はありませんでした。ですが、その痕跡は全くないのですが――……外部ツールで一部のプレイを自動化していると言われたほうが納得できるような、そんな完璧なプレイングでした」
「――まだ疑ってるわけ?」
怒気を孕んだ声でシトラスが言うが、ゲームマスターはさっきと同じように首を横に振る。
「いえ、ありえません。不正は絶対にないと断言できます。ですが目で見たプレイングも、プレイログも完璧すぎて――AIが組んだプレイプランを完璧に実行しているような……そんなことができればの話なんですが」
少し戸惑っているようにも見えるゲームマスター。こういう反応になるのか――俺はギフトのせいで人間の限界を超えた反社反応速度でプレイをしているわけだ。俺は一ミリ秒を見切り、10ミリ秒もあれば一瞬考えることもできるが――それは常人じゃ知覚できないはずの時間単位だ。
……そういう意味じゃ、俺の存在そのものがゲームにとって
「まあ、俺自身のプレイヤースキルがチートってとこすかね」
戸惑い、そして恐縮するゲームマスターが気の毒で、軽口を叩く。ゲームマスターはその言葉にぽかんとして――そして、
「――それなら、ロック様は《公認チーター》と言ったところですね。プレイヤースキルなら規約に違反しませんから、咎めようがありません」
そんなゲームマスターの言葉に、ギャラリーがざわめき――そして、次第にそこかしこで《公認チーター》とコールのように繰り返す声が聞こえてくる。
まじかよ、そんな二つ名いらねえぞ……
「――ともかく、今回はご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。ロック様に関しまして不正がないことは公式にアナウンスさせていただきます。今後も《ワルプルギス・オンライン》をどうぞよろしくお願いします」
そう言ってゲームマスターはもう一度頭を下げ、そしておそらくマスター権限であろうテレポートコマンドで何処かへ去っていった。
取り残される俺とシトラス――そしてギャラリー。
「……《公認チーター》だってさ。すごい名前つけられちゃったねぇ」
ギャラリーが呼ぶその名を繰り返し、シトラスが苦笑いを見せる。
「……とんでもない爆弾置いていきやがったな、あのゲームマスター」
これが定着したりしねえよな? 余計なこと言ってしまったな……
俺は今も聞こえるギャラリーの《公認チーター》コールに頭を抱える。
――結果、そう時間をおかずネットニュースで《公認チーター》が取り上げらてしまうのだが――この件のせいで目立たなかったニュースがあり、それは後に《公認チーター》の名前よりも俺を悩ませる事件に繋がっていくのだった。
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