恋愛弱者たちがまともにラブコメ出来ると思った?

澤田晃太

第1章

プロローグ ―青春の幕開け―

 ――春。


 青恋せいれん高校、校門前。


 そこに、これから始まる高校生活に胸躍らせる二人の新入生がいた。


 一人は少年。見た目は中肉中背で、髪型はセンター分けの黒髪。顔立ちは普通だか、なんとなく雰囲気イケメンっぽいオーラを漂わせている。


 そんな少年の名は、成瀬なるせ春樹はるき


 彼は今日から三年間を過ごすことになる校舎を、希望に満ちたキラキラとした瞳で見上げていた。


(今日からオレも、華の高校生!)


 春樹はこれからの素晴らしき日々に思いを馳せる。


(高校と言えば青春! 勉学に励むのも、部活動に励むのも、友達と忘れられない思い出を作るのも、どれも等しく、一生の思い出に残るようなかけがえのない青春‼)


 そんな青春を謳歌できるのは、きっと高校生までの話で。


 大人になってしまったら、色々なことの兼ね合いで青春するのが難しくなる。


 春樹はそう信じて疑わない。


 だからこそ、一度きりの高校生活で、勉学や部活動といった今しか出来ない青春を謳歌すべきなのだ。


 ――だが。


(だけど、オレにとっては、そのどれもがどうでもいい! そうだ。オレがこの高校生活に望むのは、たった一つ――)


 桜舞い散る木々の間で、春樹は思う。


(オレは、この高校生活で運命の相手を見つけて、絶対に彼女を作る‼ 勉強も、運動も、友情も、どうだっていい‼ オレはただ、ラブコメみたいな恋がしたいんだ‼)


 ――恋愛こそが、青春。


 それが成瀬春樹の考え方であり、これから始まる高校生活に唯一望むことだった。





 一方。


 春樹がそんなことを考えている横で、もう一人の新入生が立っていた。


 それは可憐な少女だった。同世代女子の平均身長くらいの背丈をしており、髪型は肩にギリギリ届かないくらいの黒髪ボブカット。顔には校則に引っかからない程度に薄っすらとメイクを施しており、中学の頃まで身に付けていた黒縁メガネはコンタクトに変えた。


 制服の着こなしも、教師に咎められない程度にスカートを短くしたりと、自分を可愛く見せるためのあらゆる工夫を凝らしている。


 そんな少女の名は、春風はるかぜ心愛ここあ


 彼女もまた、今日から三年間を過ごすことになる校舎を、希望に満ちたキラキラとした瞳で見上げていた。


(今日からわたしも、華のJK!)


 ここからは春樹と似たような語りが続くので、少し割愛する。


 心愛がこの高校生活に望むのは、たった一つ――。


(わたしは、この高校生活で白馬の王子様を見つけて、絶対にその人と恋人になる‼ 友達も欲しいけど……それ以上に、わたしは少女漫画みたいな運命的な恋がしたい‼)


 ――きっとこの青恋高校には、生涯を添い遂げたいと思える王子様がいるはず。


 それが春風心愛の考え方であり、これから始まる高校生活に期待していることだった。





 しかし、彼や彼女が思い描く幻想は、あっけなく打ち砕かれることになる。


「こんなの、オレが望んでたラブコメ展開じゃない‼」


「こんなの、わたしが読んでた少女漫画と違う‼」


 これは、そんなところから始まる、ちょっと残念なラブコメディ。


 ――要するに、この物語は。


 恋愛に夢見がちな少年少女たちが、理想の恋を求め、だけど理想とは全く違う展開に悩まされたりする――



 ――恋愛弱者たちによる、青春奮闘記なのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る