第17話 勿怪


「…………まあ、私たちがどれだけ話し合っても、真相はだ。仕事の流れは花笠が完璧に教えてくれただろうし、今後も採取に同行してもらおうかと考えていたんだけれど、しばらくはやめておこうか。頼みたい仕事なら、他にもたくさんあるからね」


 濡羽色の向こうの千鶴の表情は、紫水からは見えていません。


「ああ、でも……。そうか。そうだね。次の仕事の予定を立てるより先に、今回の調査で得たについて、話しておこう」


 やや心配しすぎるきらいのある彼は、いまだに彼女が怯えているものだと思い込んでいるようでした。

 

「成果、ですか?」


 千鶴はふたりを隔てる幕を上げ、紫水を仰ぎ見ます。


 彼女の関心を引いたのは、彼の態度ではなく、ひとつの単語でした。

 

「そう。本来の目的……知りたかったこととは別に、思わぬ収穫があったんだ。図らずも、君の身体に起きているを発見した……かもしれなくてね」 

 

「本当ですか!? まだなにも調べてないのに?」 


 立ち上がらんばかりの勢いで食いついた千鶴の声が、ふたりきりの診療室に谺します。


「なにを言っているんだと思うよねえ。ただ、私が発見したのは『手がかりとなりうるもの』であって、現時点では手がかりですらない。とりあえず、順を追って説明させておくれ」


 前のめりになって、いまにも倒れ込んできそうな少女をひょいと躱した紫水は、紙束の下から地図を引っ張り出しました。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る