哲学

増瀬司

哲学

 金曜の夜。仕事を終えたあと、学生時代の友人と居酒屋で酒を飲んだ。

 私はビールを、友人はカルーアミルクを飲んでいた。

 友人はうつむきながら「死にたい」と口にしていた。アルコールが入るといつもそうだ。

 私はうんざりしながらビールを飲んでいた。

 一方で、どうすれば友人は救われるのだろう?と思案していた。



 翌日の土曜日、私は近所のマクドナルドで本を読んでいた。

 友人のニヒリズムやペシミズムを打開するヒントを見つけようとしていたのだ。

 隣の席には女子高生と思しき二人組が、机を挟んで向かい合って座っていた。

 一方の子が、もう一方の子に「死にたい」と溢していた。

 どうして、私の周りには自殺志願者が多いのだろう? 聞き耳を立てているわけではなかった。どうしても耳に入ってきてしまうのだ。

 私は、飲みかけのコーヒーの載ったトレイを持ち、席を立とうとした。

 「これは例えばの話だけど——」もう一方の子が言った。「ある人が自殺を試みて、それができずに諦めたとするわよね?」

 私は、腰を元の位置に据えた。

 「死ぬことができないのなら、生きる他なくなるでしょうね。病気や事故、寿命で死ぬまでは。生きるしかないのなら、自分を受け入れる努力をしたほうがいいわ」ともう一方の子は言った。

 「『自分』を『世界』に置き替えることもできるわ」と彼女は続けた。「生きる他ないのなら、この世界を受け入れる努力をしたほうがいいでしょうね。たとえこの世界に、意味がなかったとしても」



 私はマクドナルドを出ると、ホームセンターへと駆けた。

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