放火犯を追え②
あたし達3人は一緒にハイドアウトへと向かった。ジャンがみんなに連絡している間、あたしは彼に言った。
「みんなが来たら、早く白状したほうが良いよ。あなたとジャンがどんな関係か知らないけれど、迷惑かけちゃだめだよ。何でこんなことしたの?」
彼は無言であたしを睨み付けている。
「ねぇ、何とか言ったら」
「さっきから、ごちゃごちゃうるせぇな。だいたい、なんなのオマエ」
「あたしはあの園に住んでるの。あなたこと、絶対に許さないから」
「ああ、お前が新入りか」
「新入りって何よ」
「俺のこと放火犯ってうるさいけれど、お前だって、お尋ね者の悪党『天誅の徒』だろ」
「はぁ? 放火犯と一緒にしないでよ」
あたしたちが騒いでいると、みんながハイドアウトに集まってきた。
「あら、久しぶりね、エタンダール」
グレースが微笑みかけるが、名前を呼ばれた彼は無表情だ。
「相変わらず、愛想がないわねぇ」
ミュロが溜息をつく。
「なんで今日はいるんだ?」
グロスターの問いかけにも答えない。
「ジャン、この子を新メンバーにするんだろ。大丈夫か?」
ロニーの言葉にジャンが頷く。
「ああ。こいつで最後だ」
この子をメンバーに加えるの? それは絶対に反対。だって放火犯なんだから。
「あのさ」
「あのねぇ、せめてメンバーを増やすならラテン系のイケメンダンサーとかにしなさいよ」
あたしが文句を言う前に、ミュロがジャンに詰め寄った。それはまた随分と細かい注文だ。
「イケメンならもうここにいるから必要ない」
ジャンは涼しい顔で自分を指差す。
「え? どこにいるのよ。私には見えないんですけど」
ミュロは周囲を大げさに見渡した。
「また始まったよ……」
グロスターが呟き、みんなが一斉に溜息をついた。
「それは良いとして、こいつは運動神経がいいし、手先が器用だから何かと使える」
ゴホッと咳払いを一つして、ジャンがエタンダールを指さす。
「手先が器用って例えば? 」
グロスターが尋ねる。自分も手先の器用さには自信があるから気になるのだろう。
「大体の金庫や鍵は開けられるはずだ。こいつ、鍵をかけていた部屋や倉庫に勝手に入ってな。あと細かい部品の組み立ても出来る。頭も悪くはない。グロスターやロニーの助手も出来るだろう」
「ふうん」
グロスターは訝しげにエタンダールを見る。ジャンは彼の肩を小突いた。
「おい、エタンダール。みんなに挨拶しろ」
エタンダールは特に表情も変えず「どうも」とだけ呟いた。照れているのか、緊張しているのか、それとも機嫌が悪いのかは誰にも分からなかった。
「あたしはウィルマ。でもね、あなたの容疑が晴れたわけじゃないから」
「あら、容疑って何?」
ミュロが尋ねる。
「また放火犯が出た。狙われたのはルクレール園だ」
ジャンの言葉にみんなの顔が強張る。あたしは先ほどまでの経緯を説明した。
「だから、この子は園の前にいたの。絶対に怪しいんだよ」
あたしはエタンダールを指さす。
「怪しくねぇよ。何度言えばわかるんだ」
エタンダールは不貞腐れてあたしを睨む。
「それで、お前はどうしてルクレール園の前にいたんだ」
ジャンはエタンダールに問いかけた。
「放火が続いているって聞いたから、気になって俺の家を見に行っていたんだよ。知らない奴が住みついているかもしれないし」
エタンダールはジャンを睨み付けながら答えた。
「そうか。お前の家は、今は誰も住んでいないからな。気になって見に行ったのか」
「自分の家が心配だったのね」「放火犯のアジトになっているかもしれないし」
「知らない人が住みついていたら嫌よね」「家は大丈夫だったのか?」
みんなが口を挟む。エタンダールは黙って頷いた。
「ああ。その帰りにあの園の前を通っただけだ。そこで俺は怪しい奴を見た。高校生くらいの男がボウガンを持ってた。おそらくは矢の先に火をつけて飛ばしたんだよ」
「あまりにも、分かりやすい犯人ね」
グレースが苦笑いする。
それで……とエタンダールはポケットからコイン大のバッジを取り出した。
「何それ?」
みんなが彼の掌を覗き込む。
「そいつが落とした校章を拾った」
金色に光るバッジにはアルファベットの『F』が濃い赤色で刻印されている。宝石のようなものも埋め込まれて、ただの校章なのに、高価な物のようだ。
「これはフェルミューレン高校だな。RAGの子供だけが通う高校だ」
険しい顔でジャンが言った。
「それは厄介だね」
グロスターの言葉にみんなが頷く。
「どうして?」
あたしは聞いた。
「犯人が分かったところで揉み消されるんだ」
ロニーが口を開く。
「じゃあ、あたし達で何とかしようよ。犯罪を公にすれば、RAGを取り消されるんでしょ」
「そう簡単にはいかない。フェルミューレン高校に通う生徒の親は、それなりの地位にいるRAGが多い。おそらく犯人が分かったとしても、もみ消されるだろうな」
きっぱりとジャンが言い切った。
エタンダールは黙って校章をポケットにしまった。
その様子を見て、以前の光景を思い出した。
あれは確か、みんなに初めて会った時。ジャンの家にいる引きこもりの男の子には、両親がいないってミュロが言っていたっけ。この子、エタンダールは何か事情があって両親がいなくて、ジャンの家に住んでいる。今日は、自分が住んでいた家が気になって見に行っただけだったんだ。
「疑ってごめん……」
あたしは小さな声でエタンダールに謝った。彼は何も言わず、目を合わせようともしない。
「でも残念ねぇウィルマ。今まで最年少でみんなに可愛がってもらっていたのに」
ミュロが同情の眼差しを向けた。
「まぁ、ウィルマもこれからエタンダールの面倒を見てやってくれ」
ジャンはまるでお父さんのような口振りだ。
「そうね、エタンダールとは一番年も近いんだし、ウィルマがいろいろと教えてあげたら」
優しい口調でグレースがあたしを見る。あたしは渋々頷きながら、エタンダールに尋ねた。
「ねぇ、エタンダール。学校はどうしているの?」
一つ年下なら小学校・中学校も一緒だったはず。でも一度も見たことがない。いつから引きこもっていたのだろう。まぁ、あたしは同級生もまともに覚えていなかったからと考えていると、「ああ、それなら」と何も言わないエタンダールに代わってジャンが答えた。
「こいつは隣町に住んでいたから、こっちの学校に通ったことはない。今は俺の家にいるが、学校には行っていない」
「へぇ、そうなんだ。とりあえず、よろしくね」
「…………」
しかし目つきの悪い、黒髪の彼は無言でそっぽを向いた。
なんなの、この態度。先が思いやられるなぁ。
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