血は流さない流儀 

あたしの任務①『学校での任務』

 学校では、いつも鬱陶しい奴がいた。


 名前はエノラ=ビーハン。少し癖のある金髪に青白く細長い顔をしている。彼の父親は『Rich-Authority-Group』、通称『RAG』と呼ばれているメンバーの一人だ。『RAG』を父親に持つエノラは、教師にも特別扱いを受け、学校内でいつも高圧的な態度を取っていた。彼のそばにはいつも数人の取り巻きがいる。


「ウィルマさぁ。お前、まだあの園にいるんだ。大変だよなぁ」


 エノラは周囲に聞こえるような大声を発した。大変だと言うわりには、蔑んでいるとしか思えない態度。取り巻き達はずっとにやついて、あたしを見ていた。


 毎日繰り返される光景。エノラは校内でも有名な女好きだ。しつこく言い寄られて断れない子がいるとか、同時に何人とも付き合っているとか、付き合って暴力を振るわれた子がいるとか良い話は聞いたことがない。

 エノラは以前からあたしにもつきまとっていた。聞いてもいないのに自慢話をしたり、金品で釣ろうとしたり、時には脅してきたり。噂によると父親もかなり女好きらしい。きっとこのしつこさは、父親譲りじゃないかと思っている。卒業まで我慢すればいいと思っていたけれど、今日は違った。


「そうよ、卒業まではいるけれどそれが何か?」


 いつもは無視しているあたしが返事をしたので、エノラは嬉しそうに続けた。

「俺たちはもうすぐ卒業なのにどうするんだ? 捨て子じゃあ、行くところはないだろ。親がいないって本当に大変なんだな。なぁ、みんなもそう思うだろ?」


 周りからは、くすくすと笑い声が聞こえる。他の生徒もあたしの反応を楽しんでいるようだ。同級生達が興味本位に視線を寄越している。親がいない。だから何なんだろう。あたしには産まれたときから、親なんていなかった。それを面白がって何が楽しいんだか。


「言いたいことはそれだけ?」


 やっぱり無視しておけばよかった。そう思って立ち上がった時、エノラはあたしの耳に囁いた。


「行く所がなかったら、俺の家で面倒見てやってもいいぞ。俺のお父様は『Rich-Authority-Group』だからな。俺専属のメイドとして傍においてやる。卒業まであと2か月ほどしか猶予はないんだ。感謝しろよ」

「はい?」


 エノラと友人になり、家へ招待される。それがジャンから告げられた任務だった。

こんなにあっさりと遂行できるとは。いや、待って。メイド? 傍においてやる?  この子、親の財力であたしの面倒を見るつもり? まぁ、どうでもいいや。ここは笑顔で、と。


「素敵な話ね。ありがとう」


 満面の笑みを浮かべるあたしを見て、エノラは目を丸くした。それもそうだろう。今までは、エノラが何を言っても冷たくあしらっていたのだ。あたしはにこやかな笑顔のまま続けた。


「でも、まずは一度あなたのお家におじゃまして、お父様にもお会いしたいわ。きちんとご挨拶もしたいし。ダメ? いきなり家に行くのは無理かな?」

 上目遣いのまま数回瞬きをしてエノラを見つめた。ちなみにこれはミュロに教わった。

 昨日、特訓をさせられて、何度瞼が痙攣したか。でも、特訓の成果が出たようだ。エノラはにやにやしながら何か考えている。

「そうだな。じゃあ次の休日でも来いよ。お父様には言っておくから」

「よろしくね」

 あたしが笑顔でエノラに話しかける様子を、同級生たちは口を開けて眺めていた。


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