第7話貯水池の紛争

 この地の貯水池は領主が管理している。

 逆に言えば、貯水池をおさえた者が領主なのだ。〝政治〟とは、〝治水を正しく行うこと〟が語源の言葉だし。



 貯水池についてみると、武装兵と領民らしき者たちが争っていた。


「水の使用料が村によって不公平だ。水くらい

公平に分配しろ! そのせいで農作業ができなければ、他の税も納められないだろうが!!」


「我らに従うのが、遅かったのが悪い! 最初から条件は提示していたはずだ。我らに早く従えば水の使用料を安くすると。水の使用料を上げたわけではないし、不満を言われる筋合いはない」


「領主が変わる保証は、なかっただろ!! 水の使用料を餌に村を差別するのが問題だと言っている」



「数ヶ月前に起きた水不足を解消した我らがこの貯水池を管理下に置くことは、決定事項だったはず。水の使用料を払わなければ、水の分配を止めるのみ!」



「「「横暴だ!」」」


「水の使用料を巡って火起請ひぎしょうだ。 火起請が通らなかったら、一揆を起こすぞ!! 使用料が高い村で団結して起こす。もう村同士の結束は固めた。起請文もここにある」

 起請文をかがげる村人の代表らしき者。


「な!?」

 起請文きしょうもんを掲げられて動揺する警備兵の代表らしき者。



 火起請とは、当時の裁定法の一つ。魔女裁判といっても良い。

 火で真っ赤に熱した鉄を祭壇まで持って行き、火傷が少ない方が神の加護を得たはずなので勝ちという無茶苦茶な裁定法である。実施者は再起不能になる可能性が高いゆえに、村全体で本人とその家族を扶養することになる。

 当時は、寒波や干魃かんばつによる飢饉ききんがよく起こり、村同士の争いが絶えなかった。火起請も村同士の紛争も頻繁していたのである。


「「「そーだ! そーだ!」」」


 その騒動を見ていた千歳は、首を傾げる。


「うーん…」


「どうしましたの?」


「騒いでいるやつら、どっかで見た覚えがある奴ばかりのような……」


 騒動を起こしている者達を凝視する千歳。


 …


 ……


 ………


「あ!」


「なんですの?」


「あいつら、うちの忍びたちだ。 何をやっているんだ?」

 悩ましげに、頭をかかえる千歳。


「配下の忍び達ですか? 起請文をもって村人達を扇動するなんて」


「しのぎ(仕事のこと)というのもあるだろうが……。貯水池を取り返して父を領主に返り咲かせる狙いもあるかも。だとすれば、火起請の当事者は……拙者か!」


「千歳が?」


「拙者なら、無傷で鉄火を祭壇へ運べるからな」


「はぁ……」

 夜霧は、ため息をついた。


「夜霧!?」


「千歳にもその力が……。わらわも無傷で祭壇に鉄火を運べると言ったら、どうします? というか。こちら側の当事者はわらわになりそうです」


「相手は、夜霧か……。夜霧も無傷なら、勝負はつかないな。どうする? この地を騒乱に撒き込むことになるが……。領内を二分する争いを起こせば、他の国や他の小領主から攻め込まれる隙を作りかねないだろうし」


「火起請を引き分けた後のことを話あいましょう」


「櫛を探すどころではないね!」


 何故かお互いが無傷で鉄火を運べることを疑いも無く受け入れる2人。

 こうして、火起請を引き分けた後の裏取引を進めるのだった。

 

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