変なカップ

「ヒトと犬と熊か。うーん、そうだな、ヒトと熊が一つのグループ、犬がそのグループから外れる、かな」

「ほお」

「それはどうして?」

 ジョージの答えにブブ爺とカイはそれぞれ反応する。

「ヒトと熊はかかとを地面につけて歩くけど、犬は踵を地面につけないだろ?」

「ハハハ、それは面白い見方だな」

「え?どういうこと? 犬だって踵を地面につけて歩いてるんじゃないの?」

 ブブ爺の笑い声のすぐ後にカイが疑問を投げかける。

「犬の後ろ足は、人間で言えば爪先立ちみたいなものでさ。犬の踵は地面から浮いてる一つ目の関節部分なんだよ」

「え、そうなの? ちょっと見てくる」

「それなら、犬たちに餌をやってきてくれ」

 ブブ爺はすぐさま出ていこうとしたカイにそう声をかけ、カイは部屋の片隅から干し肉を持って出て行った。

「踵か。なぜ、そんな発想に至ったのだ?」

 外からの風がランタンの炎を少しだけ揺らした後に、ブブ爺はジョージにそう聞いた。

「実は、ここに来る途中でこんなものを拾ってね」

「ふむ……、変な形のカップだな」

 ジョージはいつの間にかリュックサックを背から降ろしていたが、どうやらずっと手に持っていたらしいその物体を改めてブブ爺に見せて手渡した。

「うん。そう見えるよね。一辺、というか、一面だけが妙に傾斜してるカップって感じに見える」

 逆さにした四角錐の頂点部分から少し上を平らに切ったようなカップ状の四面の一面だけが弛い傾斜になっている。飲み物を注いで飲む為のものとしては不自然な形のものだ。

「これがどうかしたのか?ヒトと犬と熊の踵の話とどう関係がある?」

「雪原の真ん中でこれを拾って、ここまで歩いて来る中で考えていたのさ。これはもしかしたら、宇宙人の落とした靴じゃないかって」

「フフフ、それはえらく突拍子もない話だ」

「まあね。でも、ソイツの内部は妙に温かいし、ソイツの底の形のへこみがいくつか雪原に足跡のように続いていたんだ。だから、ソイツは宇宙人の靴じゃないか、って」

「……、そうか。ジョージは宇宙人の足の形状を犬のような爪先立ちだと思った訳か」

「そう。察しがいいな。流石はブブ爺」

「餌やってきたよ。何話してたの?」

 カイが戻って来て、開口一番にそう言った。

「やあ、カイ。キミはこれをなんだと思う?」

 ブブ爺から手元に戻されたそれを、今度はカイに渡しながらジョージは訊ねた。

「なにそれ。変な形のカップだね」

「やっぱりカップに見えるか。カップにしては柔らかいんだがな」

 興味津々といった目でカイはそれを観察し、ジョージはカイのその様を見ながら首を捻る。

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