急変と出会い

下腹部が割れるように痛かった。


 いや、捻れるように痛いといったほうが近いかもしれない。


 この痛みからなんとか逃れようと体をよじってみても、どうにもならない。


 痛みの程度が明らかに我慢の閾値を超え、正気を保てなくなるところまで来ていた。


――だめだ、このままでは死んでしまう。


 そんな恐怖に襲われ大声で叫ぼうとした瞬間、目がさめた。


 着ていたシャツが水でも浴びたかのように、びっしょりと汗で濡れている。


――ああ、夢か。


 部屋にこもった熱帯夜の大気を、扇風機が無機質な音を立てながら、ただかき回している。


 現実の世界に戻ったわたしの下腹部はやはり割れるように、いや捻れるように痛かった。


 痛い夢を見ていたのではなく、強すぎる痛みが夢にまで浸食していたのだと気付く。


 枕元の携帯で時間を確認する。


 午前の一時一二分。


 その瞬間、強い吐き気がわたしを襲った。


 胃が信じられないほど大きく数回揺れ、その後にどろっとした大きな塊が食道を逆流してくるのが分かった。


 たまらず吐いた。大量に。


 それがビチャビチャと音を立てながら、フローリングに落ちる。トイレ以外の場所で嘔吐したのは、小学生の時以来だった。痛みが少しましになり、呆然とする。


――最悪だ。掃除しないと。


 狭いワンルームタイプの部屋の通路にへばりつくように作られた小さなキッチンまで、ペーパータオルを取りに行こうと立ち上がった瞬間に、再び吐いてしまった。


――これは:::、やばい。


 気持ちでどうにかなる次元じゃない、と思った。


――なにか、あたりそうなもの食べたっけ? 


 ここ数日で食べたものを思い出そうとしたが、意識が朦朧としており昨日の夕食にすら辿り着かない。


 お腹の痛みがまた、津波のように私を押しつぶさんと押し寄せてくるのを感じた。


――もう、救急車呼んでいいよね?


 自分にそういい聞かせて、119にコールする。


 つながった。


 電話の向こうで声が聞こえたが、何を言っているかは分からなかった。


「死にそう::、助けてください」


 そう絞り出すのがやっとだった。


 自分が吐き出した汚物が放つ刺激臭と、まるでサウナのような湿気を含んだ熱気を脳の片隅で感じながら、わたしはゆっくりと自分の意識が薄れていくのにただ身を任せた。




「坂木さん! わかりますか? 今、京都市立大学病院に向かっています! 頑張ってください!」


 マスクをした短髪の若い男性の叫び声が、私を現実の世界に連れ戻した。


――そうか、救急車を呼んだんだ、わたし。


 仰向けに寝かされた状態で、口元に透明のマスクのようなものが付けられている。そこから黒色のタンクに向かってチューブが伸びていた。どうやら酸素を吸わされているようだ。


 相変わらずお腹には強い痛みがあったが、吐き気は先程よりはだいぶましになっていた。


 それにしても、救急車を呼んでから今までの記憶が全く無い。これほどまでに、強制的に意識を遮断されたのは初めてのことだった。


――この人たちはわたしの部屋の中まで入ってきて、意識を失っていたわたしを救急車まで運んでくれたのか::。


 酸味のつよい不快な臭いに気づく。


――そういや盛大に吐いてたな。わたし。吐物で汚れた部屋もこの人たちに見られたんだろうな。洗濯した後の洋服や下着も、たたまず床に放置したっぱなしだったはずだ、多分。


 今から病院でいろいろ検査して、胃腸の風邪からくる腹痛と嘔吐です、お家で安静にしていてくださいって言われて、胃腸炎ごときで救急車呼ぶなよっていう医療者達の冷たい視線を痛いほど浴びながら救急室を後にして、ゲロ臭いシャツのままタクシーで自分の部屋まで戻ってきて、あまりの惨めさにシクシク泣きながら自分の吐物で汚れた部屋を掃除するんだわ。


 そう思うと絶望的な気分になった。


――もう、オンナとして終わってるな、わたし。ハハ。


 出来ることなら救急車から飛び降りて、一目散に逃げ出したい気分だった。


 横になったまま車内を見渡してみる。


 時計や酸素マスクに加え、どうやって使うのか想像もつかないような、カラフルな器具達が所狭しと陳列されている。頭元にある大きな画面には、今のわたしの何かを示しているのであろう色々な数値が映し出されていた。


 時間は午前二時五分だった。


 こんな時間に、この若さで救急車を呼んでしまう人なんて他にいるのだろうか。ましてや、たかだか胃腸炎で。


 車内にまでけたたましく鳴りひびくサイレンの音が、より一層私の罪悪感を強くさせた。


 とりあえず病院についたら自分で歩いて、もう大丈夫って事をアピールして一刻もはやく帰らせてもらうようにしよう。そしてこの人達や、病院の人達に全力で謝ろう。


 そんな事を考えているうちに救急車のサイレンが鳴り止み、ゆっくりとバックをし始めた。どうやら、目的地についたようだ。


「坂木さん、着きましたよ!救急室までお運びしますので、このまま横になっておいてください」


 救急隊員がまた耳元で叫ぶ。


 自分で歩いていきます。ベッドから上半身を起こしてそう言おうとした瞬間、また強いお腹の痛みが私を襲った。


「いたい::」


「ほら!もう、横になってて!」


 救急隊員が、苛立ちを隠そうともせずに私に言い放つ。ストレッチャーに仰向けに乗ったままのわたしを救急車から降ろすと、彼らは救急室にむけてガラガラと進み始めた。


 わたしの乗ってきた救急車の隣に、もう一台救急車が止まっていることに気づいた。おそらく、わたしの少し前にも誰かがそれに乗ってここまで運ばれたのだろう。


――こんな時間に救急車を呼ぶ人が、わたしの他にもいるんだ。


 そう思うと、少しだけ罪悪感が薄れた気がした。


――あれ::::、そういえば、京都市立大学病院って::


 そう思った瞬間、ストレッチャーが通路の段差で二度大きく揺れ、その振動がお腹の芯まで強く響いた。


――すごく痛い::::


 救急室までの通路にあんな段差があって良いはずがないと思った。そして、揺れのせいか再び吐き気をもよおしてきた。ストレッチャーが一度止まり、自動扉をくぐって救急室の中に運び込まれる。顔面にベッタリとシートのようにへばりついていた熱気と湿気を、クーラーの心


地よい冷気が吹き飛ばしてくれた。


――気持ちいい。


 そう思った瞬間、その空間にとぐろを巻くように充満していた禍々しい緊迫感が、小動物を視認した肉食獣のように、弱り切ったわたしに飛びかかってくるのが分かった。


 無き叫ぶ赤子の声


 鳴り響く機械音


 立ち込めるアンモニア臭


 医療者達の駆け足に近い足音


 そして、真っ白でとても高い天井


 その一つ一つが糸を引くように執拗に、私の焦燥感を煽り立てる。


「あかん、まだ心静止や!心マを再開しろ!」


 野太い男性の怒号が救急室全体に響き渡る。


 カーテンで遮断されていたため確認は出来なかったが、その奥ではどうやら、ただならぬ状態の患者がいることだけは間違いがなかった。


 救急車をよんでしまったことに対する後悔の念が、わたしの中で濃度を上げる。


「サカキ ケイさん、二四歳女性、腹痛、嘔吐の患者さんを搬送いたしました!」


 私の頭元にいた救急隊員が、医療者達に到着を周知させるべく大声で叫んだ。


「こちらの初療室までお願いします!」


 男性の声が奥のほうから聞こえた。


 大きなカーテンで仕切られた区画の一つに運ばれると、紺色のスクラブ姿の男がストレッチャーの上に横たわる私を見下ろしていた。どうやら、わたしをここに招き入れた声の主のようだった。


 目が合う。


 若い女がこんな夜中に救急搬送されるのがよほど珍しいのか、彼は大きく目を見開いて驚嘆している様子であった。


 背はひょろりと細長く、黒縁メガネをかけて無精髭に覆われた彼の顔はやつれて見え、いかにも日々の業務に忙殺されている医師という感じがした。年齢は四十前後といったところか。そんな彼がまるで亡霊でも見るかのように私を凝視している。


 その表情をみて、吐物にまみれながら運ばれてきた自分の姿が、いかにみすぼらしく惨めに彼の目に映っているのか容易に想像できた。


「先生、よろしくお願いします。家族の方が現在こちらに向かっておられます」


 救急隊員がそう伝えて簡単な引き継ぎを済ますと、医者はおつかれさまですと返事をした後に、わたしに話しかけた。


「こんばんわ。お名前を教えてください」


「サカキ::ケイです::」


 自分の名前を告げたわたしを見る彼の瞳は、ひどく哀しみに満ちたものに見えた。彼はゆっくりと目を閉じ大きく息を吸った後、じっと私の顔を見ながら口を開いた。


「消化器外科の名東です。今からあなたの担当をさせていただきます。つらい症状は、吐き気と腹痛ですか?」


「吐き気は一度吐いてからは少しマシになりました::けど痛みは波があって::」


「ちょっとお腹を触りますよ」


 彼の手が私の下腹部を軽く押さえると、張り裂けそうな痛みを覚えた。


「つつっっ!」


 痛みのあまり、思わず体が跳ねる。


 医者の顔つきが険しくなった。


「サカキさんの体温、三十九度五分です!」


 看護師の高い声が頭に響く。わたしにではなく彼に報告したのだろうが、それを聞いてはじめて発熱していることに気づいた。


――やっぱり帰れないかも::::


 どうやらただの胃腸風邪では無さそうであるということは医者の顔を見れば明らかであり、私は複雑な気分だった。


 彼は私にゆっくりと説明を始めた。


「坂木さん、今から点滴の痛み止めを使いながら、検査を進めていきます。CTでお腹の中で何が起きているのかを調べたいと思いますが、妊娠をされている可能性はありませんか?」


「::大丈夫です。でも、どうして?」


「お腹に赤ちゃんがいる場合は、使えないお薬があったり、CT検査を受けることができないためです」


「はい::、妊娠はしていません」


 彼は一度頷くと、


「痛み止めの投与を」


 と看護師に伝える。


 指示に従い看護師が迅速に点滴の針を私の左手に差し入れ、採血をした後に痛み止めらしき透明の液体を注射した。その後、ストレッチャーに載せられてCT室まで運ばれた私は、検査台の上に仰向けのまま移動させられた。程なくして、大きなドーナツ型の機械がキーンと高い泣き声を上げると、ゆっくりと私の全身を頭から飲み込み始めた。思っていた以上に機械の中は狭く、閉所恐怖症の私は目をつぶってやり過ごすことにした。検査はものの六十秒ほどで終わった。再びゆっくりと私を吐き出して、それは鳴くのをやめた。


 救急室に帰って来る頃にはお腹の痛みがだいぶやわらいでいたが、かわりに強い眠気を自覚するようになっていた。病気のせいなのか、それとも痛み止めのせいなのか分からなかったが、もう意識を無くして、早くこの状況から逃げ出してしまいたかった。


 先程の医者がパタパタと足音を立てて、わたしのベッドの横に来た。


 昔、父親がわたしによくしていたように、腰をかがめて目線を合わせてくる。


 心なしか、先程とうってかわって彼の瞳はまるで実の娘を見るかのような、慈愛に満ち溢れたものにも見えた。


――あ、キレイな顔してる::。


 決して目は大きくはないが、鼻筋がきれいに通った彫りの深い顔立ち。薄い唇とすこし張りでた頬骨が絶妙なバランスで顔の中で位置取っていて、少しでも容姿に気を使えばイケメンと言われなくもないだろう。


――人の顔って下から見るのと正面から見るのでは、こんなに印象が違うんだ。


 そんな事を考えられるほどに痛みは和らいでいたが、眠気が徐々に強くなってきていた。


「坂木さん。検査の結果をお伝えします。落ち着いて聞いてください」


 意識が朦朧としているこの状況で、医者の話を理解できる自信は全く無かったが、頷くしか無かった。


 「CTで大腸に非常に大きな腫瘍が見つかりました。それが大腸の通り道をせき止めてしまっていることで、便の流れが悪くなる腸閉塞という状態になっておられます」


 え、::ちょっと待って::::


 大腸に腫瘍??


 それって::


 まさか、同じってこと::?


 医者の告知はわたしに強いショックを与えたが、それ上回る強い眠気に襲われ、もう抗えそうになかった。


 意識を強制的に断ち切られるような嫌な感じではなく、このまま自分の背中がどこまでも柔らかい毛布に沈み込んでいくような心地よさがあった。


――ああ、もうこのまま目を閉じて眠ってしまおう。


 彼は、どうやらこれから緊急手術が必要であることを話しているようだったが、それを理解できるほどの思考力を保てるはずもなく、そのままわたしは無意識の深淵へとゆっくり落ちていった。


 次にわたしが目を覚ましたのは、手術が終わった後だった。




「それでは、今から下行結腸腫瘍による結腸閉塞に対して、緊急人工肛門造設術および腹腔内洗浄を行います。執刀は私、名東が行います。よろしくお願いします」


「よろしくお願いします」


 彼女の緊急手術は午前四時過ぎに始まった。この時間からの緊急手術はさすがになかなか体にこたえるものがあるが、そうも言っていられない状況だった。それほどに彼女の病態は一刻を争うものだった。


 執刀は僕が行い、助手を後期研修医の濱田に依頼した。濱田は医者になってまだ五年目の若手だったが、どんなに凶悪な時間にたたき起こされても、嫌な顔一つせずにすぐに病院に駆けつけてくれる、熱意と向上心に満ち溢れた外科医だった。


「ごめんね濱田。いつも緊急手術のときに君ばっかり呼んで」


「とんでもないです!名東先生のご指名であれば、二十四時間三百六十五日いつでも飛んできますよ!」


「お前、誰にでもそう言ってるだろ?」


「はい、言ってます!」


「おい」


「すいません!」


 学生時代にラグビーで心身を共に鍛えてきた彼はいわゆるお調子者で、上司や先輩に対してギリギリ失礼に当たらない絶妙なラインを実に見事になぞり、その懐に飛び込む事に関して右に出る者はいなかった。それでいて仕事はキッチリと、そつなくこなす。


 こういうタイプは、部活でも職場でも上の者から気に入られるのは当然の事だし、外科の世界でも上司からより多くの症例を回してもらえるようになる。濱田はこのようにして貪欲に症例をかき集め、外科的な技術に関して言えば同世代の医者達の中でも頭ひとつ抜き出ていた。


「この患者さん、、、ええとサカキさんのCT所見を見ましたが::なかなかに厳しい状況ですね::」


 術野から視線をそらすことなく濱田がつぶやく。


「ああ、肝臓や肺にも転移を疑う所見を多数見られた。大腸癌の全身転移と考えてまず間違いないだろうね」


 「::という事はもう、根治は望めないですね::」


「そうかもだな::、でもまずは今の緊急事態を乗り越えないと」


「そうですね」


 開腹をすると、予想どおり腸のどこかが穿孔を起こし、腹腔内には少量ではあるものの便汁が漏れ出ていた。そのせいで腹膜に感染をおこし、強い痛みの原因となっていたのだ。便汁をスプーン型の器具で繰り返しすくい出し、その後で何度も生理食塩水で腹腔内を洗浄した。


「名東先生、これで生理食塩水十リットル洗浄完了です」


「オッケー。それじゃあ大腸の観察をしようか」


「はい」


 濱田が慎重に大腸を腹腔内から触れながら観察を続けると、下行結腸に巨大な腫瘤が見つかった。


「大きいですね::、五センチ以上ありそうです。しかも腫瘍が大腸の壁を食い破って、外にまで顔を出している::」


 予想以上に大きな腫瘍だった。


「残念だけど、この腫瘍はもう切除することはできないな。よし、診断をつけるために腫瘍から一部組織を採取して、その後に人工肛門を造ってしまおう。濱田、できそうか?」


「もちろんです! やらせていただきます」


 待ってましたと言わんばかりに濱田の瞳が光る。


 五年目とは思えない程の素早い手付きで手術をすすめる濱田の手技は、ケチのつけようの無いものだった。


 結局、腹腔内から膿を体外に出すためのドレーンを二本留置し、閉創まですべて濱田がメインで行なった。手術は二時間足らずで終了した。


「濱田先生、おみごとだね」


 手袋を脱ぎながら殊勲者にねぎらいの言葉をかける。


「いえ、名東先生が前立ちでご指導してくださったおかげです」


と深々と頭を下げている。


 慇懃無礼とはこのような振る舞いの事を言うのだろうなと思ったが、これを不愉快に思う上司はいないという事を、誰よりも濱田自身が分かっているのだろう。


「ほんと出世するよ、お前は」


「ありがとうございます!ただ、この坂木さんの今後の事を思うと、ちょっと落ちてしまいますね::」


 らしくなく濱田の顔が曇った。


「そうだね。今後、彼女は少しでも癌の進行をおさえる為に抗がん剤の治療を頑張っていく必要がある」


「それでも、体から癌が無くなることはないんですよね。まだ二十代の若さなのに::」


「ああ、いずれ癌で最期を迎える時が必ず来るだろう。しかもそう遠くない未来に。それでも彼女はたたかっていくしかないんだよ」


「はい::、でももしこれが自分の彼女の事だったらって思うと、やっぱり耐えられないですね::」


 僕はうなだれる彼の肩を軽く叩いた。


「そうだな。ただ例えそうだとしても、向き合うしか無い。病気の治療ができるのは医者であるお前しかいないんだぞ」


 あえて厳しい口調で彼をさとす。医者の同情など、一文の得にもならない事を再確認させる必要があったからだ。


「そうですね。すいません、しみったれたこと言って」


「まあでも、そういう気持ちも大事だ。お前を見てると、初心を忘れてはいけないなって思うよ」


「いえ、僕は早く名東先生みたいになりたいです!」


 ニヤニヤとそう返した濱田は、もういつもの調子だった。


「お前、それ誰にでも言ってるだろう」


「はい、言ってます!」


「おい!」


 軽く頭をはたくと、嬉しそうに濱田は笑った。 


――全く、どこまでも調子が良い奴だ。


「ほら、はやく手術記録を書いてこい!」


 僕がそう言うと、失礼しますと頭を下げて濱田は手術室を出ていった。


 手術台からストレッチャーに移され、未だ麻酔から覚めずに眠っている彼女を見る。


 彼の言う通り、これから彼女を待ち受ける闘病生活は過酷なものになると考えられた。


 年齢から考えると、社会人になってまだそれほどたっていないだろう。ひょっとするとまだ学生かもしれない。仲のいい友人もいるだろうし、パートナーだっているかもしれない。


 今まではごく一般的な生活を送っていたであろう彼女の日常も、今日から激変する事となる。


――それを彼女は受け止める事ができるだろうか::


 今後彼女と共に病気と向き合っていかなければならないことに対して抱いた不安と、手術の緊張から開放されふいに襲ってきた眠気を振り払うべく、僕は大きく首を振った。

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