勇気ストーリー

けろよん

第1話

 勇気ある若者が王様に呼ばれて城の謁見の間を訪れた。王様はとても嬉しそうに彼を迎えた。


「おぉ、其方か! 噂のとても勇気ある若者と言うのは!」

「お褒めに預かり恐悦至極にございます」


 王様の言葉に若者は恭しく頭を下げた。


「ほう、礼儀正しいのう。うむ、それでだ……もしよければお前の勇気を見せてはくれないだろうか?」

「えっ? それはどういうことでしょうか?」

「実はな。小説家になろうの20周年を祝おうと思っておるのじゃが、そのテーマが勇気なのじゃ。しかし、なかなか良いアイデアが無くてのう……。そこで、其方の勇気を見せてほしいと思って呼んだのだ」

「ほほう、それは面白い。つまりこの俺に小説家になろうの20周年記念作品を任せてくださるというのですね。作者のお気に入りキャラとかじゃなく」

「それも考えたのじゃが、知らんキャラを出しても読者は付いてこれんからじゃろうからのう。そういうのは桜来と和音の島訪問を読んでもらえばいいとして、今回は全くの新キャラで行こうと決めたのじゃ」

「お気持ちは理解しました。では、その依頼謹んでお受けいたします」

「おお、引き受けてくれるか! ありがとう。それでは早速頼みたいのだが……」

「その前に一つ提案がございます」

「ほう、なんじゃ? 言ってみるがよい」

「ヒロインを用意しましょう。絵面が王様と俺だけでは楽しくないですからね。それともう1つ、俺に名前を与えてはいただけませんでしょうか? ただの勇気ある若者ではどうにも味気ないと思うのです」

「ふむ……まぁ確かにそうだな。よし分かった。ならば新しい名を与えようではないか。これからはアレクと名乗るがよい。あから始まって覚えやすいからな」

「ありがたく拝命いたしましょう」

「うっ……!」

「どうされました?」

「執筆中小説の記憶が……大丈夫大丈夫、絶対に完結するから。なんでもないから気にするな。さて、次にヒロインじゃったな」

「はい……これは表紙を華々しく飾れるように三人は欲しいですね。別に書籍化するわけではありませんが」

「三人か……。そんなに出して大丈夫かのう? 書くの大変じゃと思うが……」

「そこはご安心ください。ちゃんと考えておりますゆえ。それに三人いればハーレムもできますし、読者ウケもいいでしょう」

「ほう、よければその考えとやらを聞かせてもらえるか?」

「絵師に丸投げ」

「考えてなああい!!」

「時には他人を頼るのも勇気でございますよ。王様」

「まあ、いいか。とにかくヒロインを呼ぶぞ。入って参れ」


 王様が手を叩くと三人の女の子たちが謁見の間に入ってきた。

 一人目は赤い髪の少女だった。彼女はアレクを見るなり頬を赤らめながら彼に近づき、上目遣いで見つめてきた。

 二人目の子は緑色の髪をした少女だった。彼女はアレクを見ると笑顔を浮かべながら彼の元へと駆け寄ってきた。そしてそのまま抱き着いて離れようとしなかった。

 三人目の子は金色の長い髪を持った少女だった。彼女はアレクの姿を見つけると一瞬驚いたような表情を見せた後、すぐに顔を綻ばせながら彼の元へ走っていった。しかし、途中で転びそうになったため彼は慌てて彼女を支えた。すると金髪の少女は恥ずかしそうにはにかみながら彼の腕にしがみついた。


「さすが王様。どの子もとても可愛らしい子たちじゃないですか」

「まぁ、確かにそうなんだが……なんというか、いきなり三人も出すとキャラが弱くはないか?」

「まあ、それはおいおい何とかなるでしょう。では、そろそろ俺の勇気あるところをお見せしましょうか」

「おお、そうじゃったな。そろそろテーマを見せないと詐欺だと思われてしまう。では、ドラゴンを召喚するぞ」


 王様はドラゴンを召喚する。とても獰猛で強そうなドラゴンだ。その爪は大地を穿ち、咆哮は謁見の間を震わせる。

 アレクはそよ風の様に受け流すと剣を抜いてヒロイン達に声をかけた。


「みんなは離れていてくれ。こいつは俺の勇気で何とかする」

「えぇー、わたし達も戦えますよお」

「とびっきりの呪文を見せたかったのに」

「私もですぅ」

「君たちの気持ちはよく分かるけど、今は俺の勇気を見ていてくれ」

「ええ、分かったわ」

「でも、危なくなったらいつでも頼ってよね」

「命令を待っていますから」

「ああ、もちろんだとも。さて、それじゃあちょっとドラゴンと戦ってくるぜ!」


 アレクは剣を構えながらドラゴンに向かって走り出した。ドラゴンはブレスを吐きかけてきたが、アレクは炎の盾で防いだ。そして、そのままドラゴンの懐に飛び込むと激しく爪と剣で打ち合った。


 キンキンキンキンキン!


「くそ、こいつ強いな!」

「頑張って、勇者様!」

「負けるな、勇者様!」

「こらえて、勇者様!」

「ああ、もちろんだぜ。俺の勇気は諦めない!」


 しかし、ヒロイン達の応援が響く中、アレクは徐々に追い詰められていく。


 キンキンキンキン! ズガッ!


「ううっ!」

「ああ、勇者様!」

「勇者様が負けちゃう!」

「ここまでなの、勇者様!」

「ほほう、これは旅立つ前に終わりかのう」

「まだだ! 俺の戦いはこれからだ!」


<完> ここまでお読みくださりありがとうございました。けろよん先生の次回作にご期待ください。


「終わるなあ!!」

「あ、まだ終わってなかった」

「勝手に終わらすなあ!」

「だって、今の感じだと普通に終わりそうだなって……」

「もう誰も読んでないと思うし」

「キンキンキンキンとかパクリだし」

「もう勇気は見たかなって」

「失礼な奴らだな。よほど俺ツエーじゃないと嫌らしい」

「そうじゃな……。確かにアレクがこのまま戦ったら死ぬじゃろうが、何か策があるなら聞かせてもらいたい」

「トラックに撥ねられたら異世界に転生してチート能力を」

「ここもう異世界じゃし」

「本当は有能なのに追放されて辺境でスローライフを送ってたらモテモテに」

「それで?」

「婚約を破棄されたら別の凄い奴に見初められて」

「婚約者がおるのかの?」

「いないけど……」

「……」

「……」

「……」

「…………」


ドラゴン「もう暇になってきたし、帰っていいかな?」

アレク「まあ、待てって。これから勇気を見せるから」

王様「とりあえずこいつは辺境に追放しておくか」

ヒロインA「まあ、可哀そうな勇者様」

ヒロインB「勇気なんて口先だけだったわね」

ヒロインC「あんたみたいな能無しはこの国には必要ないのよ!」

アレク「ああ、くっそ!」


 こうしてアレクは勇気の本当の凄さを知らない奴らによって追放されたのだった。

 今更戻ってこいと言われてももう遅いからな!




「ふう……やれやれ。また何かしてしまったかな」


 騒がしい者達のいなくなった部屋で王様は密かに息をついていた。


「20周年か。もっと古いかと思っていた」

「ジャスコも二十歳になりました」

「それも古い」


 話に付き合っているのは少女の姿に戻ったドラゴンだ。ヒロイン三人はさっさと帰ってしまった。

 彼女はキーボードをカタカタ叩くと視線を上げて言う。


「ちょっと調べてみたところ、2004年というのはドラクエ8の発売した年のようですね」

「古いのか新しいのかよく分からん年じゃな」

「ドリームキャストが発売したのが1998年、撤退が2001年、ラグナロクオンラインとFF11が2002年、ネットはそこそこ普及していた年みたいですね」

「そうなのか。昔の事はよく分からんのう」

「プリキュアも20周年と言ってましたね」

「あれと同い年なのか小説家になろう。みんながブラックとホワイトを応援していた年になろうは始まっていたのじゃな」

「作者がなろうに初めて投稿したのが2012年」

「まだ12年か。あの頃はもう何もかも懐かしいような気分だが」

「アリの穴もまだありましたからね。あそこが閉鎖された時はみんな驚いたものです。それも懐かしい思い出ですが」

「では、始めるとしようかの」

「何を書かれるのかは決まったので?」

「それはもちろん、勇気の物語を」

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